賃金を支払いすぎた際の対応は?給与からの天引きは可能か?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
4月半ばに入社した従業員に対し、4月分の給与は入社日以降の日割りで支払うべきところを、誤って満額を支払ってしまいました。
この誤りに気づき、翌月の給与から過払い分(約半月分)を天引きすることとして、その旨の通知を行いました。
しかし、該当従業員からは「4月の給与は既に使用してしまったため、給与からの天引きは生活に困る」との反応がありました。
このような場合、給与から過払い分を差し引くことは可能でしょうか?
解説(基本的な考え方)
過払いされた賃金を後日の給与から清算することについては、
・予め従業員に告知される
・控除額が従業員の経済生活を脅かさない程度である
給与から控除できる場合
給与の全額払いの原則の例外
労働基準法第24条では給与の全額払いの原則が定められており、賃金の一方的な控除を禁止しています。
一方同条1項の但書では
・当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、(中略)ないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合 (社宅料、購入物品の代金など)
においては、公益上の必要や手続の簡素化を理由に、全額払いの原則の例外を認めています。
支払ってしまったら取り返せない?
たとえ誤りとはいえ、受領したものは返還義務はないと主張されるケースもみられますが、会社が過誤により給与を過払いした場合には、
その過払い分は従業員が本来受け取るべきではないため、使用者は不当利得の返還を請求できます(民法703条)。
また、従業員の同意が得られれば、
従業員の給与請求債権と相殺することが可能です(民法505条)。
賃金の控除協定を結んでいるとき
前述のように給与から一定額を控除するためには、法令で認められている控除を除き、労使間であらかじめ協定を定めておく必要があります。
給与の過払い時の対応についても、賃金の控除協定に含めておくとスムーズに対応ができます。
給与の控除協定がない場合の対応
協定が存在しない場合、労働基準法第24条に規定されている事項を厳格に遵守し、それ以外の控除は行えないのでしょうか。
最高裁の判断
過払い分の清算を目的とした賃金からの相殺(控除)に関して、最高裁は
とし、具体的な手続きとしては、
と判示しています。
行政解釈の例
行政解釈によると、例えば7月15日に7月分の賃金を前払いした会社で、その後5日間のストライキがあった場合の過払い賃金の清算に関して、具体例が示されています(昭和23年9月14日基発1357号)。
この例では、月の中途に賃金を前払いしており、ストライキにより満稼働でなかった場合の対応として、
としています。
これらの判断から、控除協定が結ばれていない場合であっても、過払い分を後日の給与から控除することは可能といえるでしょう。
控除可能な金額は?
給与の約半分を控除することに問題はないのでしょうか?
民事執行法では
としています。
差し押さえとは事情が異なりますが、給与の約半分を控除するのであれば、単月ではなく複数月に分割して控除するなどの配慮が必要でしょう。
まとめ
最高裁は、賃金からの過払い分相殺が行われる際は、
と強調しています。
従業員の生活に大きな影響を与えないよう、双方に負担がかかりすぎない範囲で、よく話し合って対応を決めることが必要です。
また、労使間のトラブルを防ぐためにも、事前に「賃金控除に関する協定書」を締結しておくことが望ましいでしょう。