特別手当の支給:正社員だけに限定することは可能?コロナ禍での労をねぎらう手段とパート社員の反応
最終更新日:2024.10.24
目次
正社員だけに手当を支給することでパート社員から不満が
新型コロナウイルス感染症の影響の中で、社員は様々なストレスにさらされています。
その労をねぎらうため、正社員に特別手当を支給することにしたのですが、パート社員から不満の声が上がっています。
正社員とパート社員では職務内容が異なるのですが、パート社員にも特別手当は支給しなければならないのでしょうか。
不合理な待遇差はパート有期法で禁止されている
パート有期法では、通常の労働者と短時間・有期労働者との待遇が異なる場合、不合理な待遇差を設けてはならないとする「均衡待遇」(パート有期法8条)と、短時間・有期労働者であることを理由として待遇について差別的取扱いをしてはならないとする「均等待遇」(パート有期法8条)を定めています。
当該事例では、正社員とパート社員の職務内容が異なるとのことなので、検討すべきは「均衡待遇」の点となります。
パート有期法では、不合理な待遇差であるかについて「個々の待遇」ごとに、「待遇の性質・目的」に照らして判断されるべきとされるため、手当の性質や支給する趣旨を明確にする必要があります。
求められたら、正社員との待遇差の理由を説明する義務がある
パート有期法14条において、パートタイム・有期雇用労働者から求められた場合、事業主は、通常の労働者との待遇差の内容や理由を説明することが義務付けられています(賃金の決定において、どの要素をどう勘案して決定したか、通常の労働者への転換推進措置の決定に当たり何を考慮したかなど)。
なお、説明にあたっては、裁判例や短時間・有期雇用労働者および派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)を参考に検討が必要となります。
違反しても法的な罰則はありませんが、訴訟リスクは今まで以上に高くなる可能性があるため、正確に対応しておく必要があります。
不合理な差ではないことを説明できるかどうか
正社員に手当を支給するにあたっては、その手当の性質や支給する趣旨を踏まえて、
①職務の内容、
②職務の内容および配置変更の範囲、
③その他の事情から、
パート社員に当該手当を支給しないことについて不合理な差ではないと説明しうるか個別に検討が必要となります。
不合理な差ではないと説明し得ない場合には、パート社員もその手当の支給対象者に含めて検討すべきでしょう。
なお、手当の趣旨によっては、勤務日数に応じて金額を段階的に設定するなどの対応はあり得るでしょう。
「感染リスクのある業務に対する手当て」であれば同じ環境下の全員に支給すべき
当該事例では、新型コロナウイルス感染症という非常事態の中で「正社員のみ」に限定して、「労をねぎらう」意味で、「特別手当」を支給する趣旨の明確さが必要となります。
例えば、感染リスクがある状況下において事業場で勤務させることを労う目的で支給される手当であれば、正社員・パート社員ともに同じ環境下に事業場で勤務させている状況においては、職務内容の違いや転勤の有無などの異動の範囲の相違を当該手当の支給に差を設ける理由とすることは難しいでしょう。
また、その他の事情において当該差を設けることについて不合理ではないとする点があるかですが、これも「正社員のみ」と限定するのは難しいと考えます。
人材マネジメント上のポイント
何故、有期雇用の従業員が必要なのか、どのような制度が異なるかを一覧表にして精査する必要があります。
また、現状としてどのような業務・役割を担っているかを整理も併せて実施します。
その結果、業務・役割が正社員と同じであれば、賃金等の待遇を揃えることが求められます。
その際に、所定労働時間の過多は関係なく、純粋の「業務・役割」の差異で測定します。
待遇については、「同一」であれば、月給を時給に変換して対応することになります。
「業務・役割」に関して、現状の業務(ジョブ)の調査・レベル分けを行い、役割については業務のみならず、組織において求める役割を整理することになるかと思います。
今後の方向性として、無期雇用・有期雇用の身分ではなく、どのような業務・役割を担っているかで区分等していくことが人材の活用の近道だと考えています。