人材マネジメントの新時代:AIと共に進化する企業の人材戦略
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は、昨今の人材マネジメントを取り巻く環境について触れました。
今回は、その環境から人材マネジメントがどのように転換したのか、また転換する必要があるのかということについて、説明したいと思います。
人材マネジメントの行方
労働人口の減少に伴う人材不足が深刻化していることは、前回、述べました。
しかし、一方で賃金が上がらない(低い水準の)人や、ワーキングプアの人も多く存在しています。
今も「人」そのものは多くいると考えています。
適切な人材がいないというのが現実ではないでしょうか。
日本はこれまで、経済の成長や人口増加の期間が長かったため、「人なんかいっぱいいる」という発想が根強くあります。
その価値観はなかなか変えることができないと思われます。
また、人材そのものの価値観も大きく変化しました。
詳しくは、以前連載した「ブラック企業/ホワイト企業-その分岐点を探る」でも触れましたが、バブル崩壊以後、企業の終身雇用の文化が徐々に崩壊し、皆が同じ価値観だったものが、就業環境の変化により、価値観が多様化してきました。
その結果、会社・業務に対して、コミットしない人も多くなってきました。
そして、以前は業務よりも会社という意識が強かったと思われますが、職種別採用に代表されるように業務に対してコミットする人が増えてきました。
その一方で、以前にように会社にコミットしている人も存在しています。
労働人口の減少・人材の価値観の変化、この2つの人材不足時代に伴って「適切な人材」の確保・育成をしていく必要があります。
これまでの人材マネジメントの基本は、適切な人材を選定して、処遇するというスタンスでしたが、これからはそれだけでなく、人材の役割を見極め、それに応じて育成してということが必要になってくると考えています。
人材の役割の変化
それでは人材の役割の変化は、どのように変化したのでしょうか。
人材ポートフォリオを用いて、これまでの人材の役割の変化と今後想定される役割を考察したいと思います。
人工知能は様々な可能性があります。
しかし、現在、具体的に業務において、どの部分が人工知能でカバーできるのか明確ではないため、どの業務を担うのかを考えるのは得策ではありません。
むしろ、考えなければならないのは、これからの時代はより一層、業務のやり方・進め方が変わるということですあり、これまでの考え方が通用しなくなるということです。
このような変化は、戦後から現在に至るまで、続いていました。
しかし、明らかに違う点は、これまでは、日本全体が成長しているなか、そのような変化は人材活用の「シフト」につながっていましたが、これからの時代は「シフト」ではなく、「消滅」になるのではないかと考えています。
例えば、これまでは、Aと言う業務がなくなると、次にBと言う業務にシフトしてき、Bと言う業務が軽減すると、Cという業務にシフトしていきました。
しかし、これからの時代は、そのようにはならないと考えています。
正確には、シフトする業務はありますが、その業務は極めて「補完的」な業務であるため、すべての人材がシフトするのは難しいと思われます。
また人が関与する定型業務はなくなっていくでしょう」。
以上のようなことは、以前から言われてきましたが、なかなか、実感としては沸いていなかったのではないでしょうか。
人材ポートフォリオの変遷
一般的な過変遷を、人材ポートフォリオを使ってみていきたいと思います。
バブル崩壊前後から、2000年代、さらには現在にかけての姿を考察します。
① バブル崩壊直後
最初に、バブル崩壊前後における雇用・役割について考察します。
「長期蓄積能力活用型グループ」がほとんどを占めており、その中に業務や役割が分かれているというのが現状でした。
しかしながら、業務や役割ごとに区分された中には、一般職という女性を中心としたキャリアパスが存在しており、必ずしも、長期ではない場合もありますが、短期間想定はあまりなく、長いキャリアを想定していました。
企画的業務、定型的業務双方とも、「長期活用型」が占めています。もちろん、パート・アルバイトいう概念はありましたが、学生等若年者が多く、しかも、飲食店等小売り業務に限定されていました。
② 2000年代頃
次に、2000年代について考察します。
景気の後退により、急激に雇用が冷え込んだため、新規の採用を控え、非正規が増加してきました。
しかし、一方で、人材不足にもなり、その代替の必要がありました。
その結果、もう一つのグループができました。「雇用柔軟型グループ」です。
この時代から、「派遣社員」「フリーター」と言う言葉がかなり否定的に捉えられてきた時代でもあります。
以前は、高度専門型である場合は多かったですが、法改正による対象範囲の拡大などにより、
雇用柔軟型が1つのグループとして登場するくらいのウエイトを占めるようになりました。
これまで、「長期雇用型」が担ってきた業務が「雇用柔軟型」に移行したとも言えますが、それほど単純な話ではありません。
時代背景により、採用のタイミングが異なったために、「グループ」が異なっても、同じ業務を担っている場合が多々あります。
考えられる理由としては、日本の労働法では、一度採用してしまうと、解雇等、雇用調整がやりにくいようになっており、
既存の人材を非正規雇用に移行させるのは非常にハードルが高く、また、心情的にもそのような措置を講ずることには、抵抗もあります。
そのため、同じような業務(特に定型的業務)であったとしても、一度正規社員として雇用された人はそのままで、新規に雇用された人は非正規社員という構図ができました。
③ 現在の姿
さらに、現在について考察します。ポートフォリオとしては、2000年とほとんど変わりがありません。
しかし、2000年代に問題になった、異なるグループ・同一業務役割の構造は大きく変化しています。
「長期活用型」が減少してきましたが、これは改善ではなく、単なる経年による現象だと考えられます。
定型業務の主体が、「長期活用型」と「雇用柔軟型」の両方がいることは間違いありません。
しかし、最近の人材不足により、「雇用柔軟型」の一部が、業務はそのままにして、「長期活用型」に移行している現象もあります。
④ 将来の姿(2030年前後)
最後に、人工知能がある程度浸透したという前提で、人材のポートフォリオがどのようになるのかを検証します。
先述した、AIをはじめとする人工知能が普及するということは、本来、人が担ってきた仕事がなくなる(もしくは負荷が減る)ということです。
それはどのような業務になるのでしょうか。
2000年以降大きく支配していた雇用の短期化は終了し、雇用は長期化する傾向だと思います。
理由としては、現在の労働法の強化・人材の不足化はますます進行し、欲しい人材については、継続雇用していく傾向はこれからも進むと思います。
定型業務は、人工知能やロボット等が行い、そのサポートを雇用柔軟型が担い、それらの活用の方向性や、企業全体の方向性を担う役割を背負うようなイメージです。
一般的には、人工知能の業務は、「雇用柔軟型」の代替になることが想定されますが、必ずしも限定されるわけではありません。
もしかすると、「高度専門能力」にも影響する可能性があり、さらには、「長期雇用型」にも影響する可能性さえあります。
現在の「働き方改革」というのは、日本企業の人材マネジメント、さらには日本企業においては大きな分岐点とも言えます。
これまで皆が一丸となって、勤勉に働くことによって、成長させてきたスタイルが崩れます。
今後の人材マネジメントを考えるうえで、この「皆」と言う言葉がポイントだと考えています。
バブル崩壊以降、すでに皆が同じ価値観ではなく、同じ方向に向かうのは難しいのです。
これからの人材マネジメントのポイント
人材の高度化・企画化に伴い、経験などが必要とされる場面が少なくなってきています。
一歩間違えると、自らの業務をなくす可能性もあります。
人材マネジメントのポイントとして、どのような業務が向いているか、業務・会社に対しての姿勢などの要素を測ることにより対応していく必要があります。
前述したように、2030年には、今の仕事の半分がAI等に代わるとの試算もあります。
現在の想定では、単純な事務作業、もしくはある程度複雑な事務作業等が対象になるかと思います。
一方で、企画業務や、高度な判断を要する業務、全く経験したことがない業務等が残るものと思われます。
具体的な業務の軽減、人員の割り振りについては、まだまだ未知数な部分があります。
しかし、従前の業務に対して、人の手が必要でなくなることは明確です。
30年程前から、パソコンが投入され、オフィスの効率性は著しく上がりました。
特に、事務作業を中心に、関与している人員が大きく減りました。
また、残った業務に関しても、格段に労力がかからなくても済むようになり、経験・スキル等を要さずに出来るようになりました。
そのときは、景気も後退してしまい、新規採用を控えるとともに、派遣社員等が増えたこともあり、オフィスの風景は大きく変わったことかと思います。
先述の通り、以前にパソコンが導入された時のように、段階的にオフィスの姿が変わることが予想されます。
働き方改革や人材不足も影響して、今後、10数年にわたって、作業効率は飛躍的に伸びていくでしょう。
しかし、これは同時に、人の役割が変わることを意味しています。
これまでの作業がなくなるのと同時に、違う役割を担うことになるかと思います。
しかし、単純にシフトすることは難しいと思われ、そこには人材のミスマッチが生まれます。
今後、人の役割がシフトするにあたって、どのような人材マネジメントが必要になってくるのでしょうか。
将来の業務とスキル等のミスマッチを防ぐために、何かしらの対応が必要になってくるかと思います。
ますます、人工知能が浸透するなか、定型的なものはもちろん、判断を要するものについても、
人の力を必要としなくなるにあたって、これまで人が担ってきた業務が確実に軽減されることでしょう。
それに伴って、企業の人材マネジメントは変化していく必要があるはずです。
次回は、それを前提にして、どのような形で人材マネジメントの変化を行うのかということについて触れていきたいと思います。