日本版ジョブ型人事制度の概要とポイント
最終更新日:2024.10.24
ジョブ型への5つの概念
前回までジョブ型人事制度の概要について触れました。
日本版ジョブ型人事制度の一番のポイントは、役割と職務のミックス型であると考えています。
現在メンバーシップ型とジョブ型という論点がありますが、日本においては職能資格制度による年功序列型という安心感が、従業員のモチベーションを高めてきたことも事実です。
その反動もあり、ジョブ型を採用すると個人主義になってしまう可能性があるのではという懸念があります。
昨今、日本におけるジョブ型の議論において、「ハイブリッド型」ということが注目されています。
この論点は、全体主義的傾向が色濃く残る日本型企業ならではのことであり、ジョブ型の行き着く先を懸念しての対応であると考えられます。
ジョブ型の懸念としては、以下が挙げられます。
- 自分の仕事しかしなくなる
- 会社に対する愛着がなくなる
- 異動による対応が難しい
- 降格等による給与額減少が不利益変更につながる可能性がある
- 人を助けようという姿勢がなくなる
「ハイブリッド型」はこれらへの対応であるとも言えますが、全部対応してしまうと、ジョブ型本来の特長がなくなり、今までと同じ制度になってしまう可能性があります。
概念への3つの対応策
それらの懸念に対して、どのように対応することが求められるのでしょうか。主に3点あるかと思います。
- マネジメントにはジョブ型というよりも、権限・役割を重視する
- 新卒においては、ジョブ型を適用しない
- 「助ける」等の組織視点は、ユニットの評価を行う
1:まずは、先の海外におけるジョブ型にあるように、マネジメントと専門職という概念を明確に分けることが不可欠です。
この際に注意すべきポイントしては、専門職は「専門性の高い」「転職市場等における」業務に従事するということ、またマネジメントとは、実際に部下が複数人(一般的には7人と言われている)おり、組織におけるヒト・モノ・カネ・情報をコントロールする役割・職務が与えられること、など厳格に運用する必要があります。
2:次に新卒に関してですが、現在の日本においては、新卒一括採用が残っているなか、圧倒的に多くの人が、いわゆるビジネススキルを身に付ける機会がなく、企業で身に付けることが一般的です。
そのなかでジョブ型を適用しても、成長ができないばかりか、素養のある優秀な人材の見極めが上手くいかない可能性があります。
本来であれば、教育機関においてある程度の職業の教育等も必要だと思われますが、現時点ではそれを企業が担っているため、「日本版」の考え方が必要だと思います。
3:最後に、「助ける」等の組織的視点に関してです。ジョブ型を導入すると個人主義になってしまうという懸念からだと思われます。
確かにジョブ型はその職務を遂行していれはよいものです。
しかし、それだけでは成長は見込めないどころか、変わらないということは、陳腐化するということになり、次第に報酬等がダウンする可能性があります。
そうならないために、他の業務を積極的に行っていく必要がありますし、常にバリューが高い業務に挑戦する必要があります。
弊社の過去の実績として、「役割定義からジョブのレベル分け」を行い、役割の進化とそれに伴うジョブレベルの向上の両方を実現した制度があります。
ジョブ型との違いは以下の通りです。
ジョブ型は、「その職務に従事しているかどうか」であるのに対して、役割型は「会社が求める役割からのジョブのレベル分け」であり、従事している職務のレベル分けを子なうことにより、成長しようとする人に対するモチベーションを上げようという狙いがあります。
また、管理職(幹部候補)の育成、新規学卒者に対する対応も可能になります。
デメリットとしては、運用をが役割ではなく能力的なものを重視すると、従前の職能資格制度に近いものになってしまう可能性があります。
成功させるポイント
成功するためのポイントとしては、「これまでの価値観を変えなければならない」「制度設計時においてジョブ型を導入しようとした背景、問題課題等を忘れない」ということを最後まで貫き通せるかどうかです。
ジョブ型に限らず、人事制度の改定においては、人事部のメンバーをはじめ、その企業の役員・執行役員の方々、さらには現場の管理者、そしてそこで従事している社員の方々など多くの利害関係者がいます。
また、ネット等の情報においても、「リストラされる」「給与が減らされる」「閑職に回される」などの不安材料も多々出ています。
それらに流されることなく、利害関係を調整していくことが重要であり、ときには厳しい判断をしていくことも必要です。
具体的には、「これまでの実績を考慮しない」「賃金の減額を許容する」などが挙げられます。
また、多くの声として、「モチベーションが下がる」という指摘がありますが、ポジションや経験年数(単なる年齢ではなく、伸びしろがあるかどうか)にもよりますが、本来、モチベーションは上げてもらうのではなく、自らが上げていかなければならないものです。
企業として、ある程度は「与えなければならない」のですが、すべてを与える必要はないという割り切りも必要です。
基本的な考えとしては、「今の職務等を評価」「目に見えるものを評価」することが基本となります。
逆に、「過去の実績を評価」「やる気等、目に見えないものを評価」するということは、情意評価、職能資格制度の考え方に近いものがあり、改革が実現しません。
失敗例として多いのが、色々な人の意見を聞きすぎて本来の姿を見失っていることです。
そして、一番の問題は、すべての利害関係者を取りまとめ、そのうちの“一部”をジョブ型のメリット・効果につなげることです。
一見するとできているようにも見えますが、個々人の価値観が変化しないと組織の価値観の変革には至らず、
制度設計はなんとかなったとしても、運用を始めると崩壊した例もあります。
改革に踏み切る前に
そもそも、人事制度を変革するだけでも、相当な労力やパワー、価値観の変化を伴い、さらにはジョブ型という、これまで経験していないような制度を導入するには、それ相当の困難があります。
そこには経営等からのある程度のコンセンサスが必要になるため、「組織が安定している」「今現在、特に人材マネジメント上の問題を抱えていない」「ビジネスが安定している(上昇している)」などの状態で、変革の必要がないと考えているのであれば、変えないという判断もありえるかと思います。
問題・課題の共有、そこから導き出される解決策の共有が不可欠です。それらがないと、真の意味での改革は実現できないのではないでしょうか。
次回以降は、実際のジョブ型人事制度の内容を説明しながら、そのポイントや人事DX化の可能性について触れたいと思います。