自宅待機命令を出す際の法的要因と給与対応について
最終更新日:2024.10.24
目次
外出自粛要請に協力するための自宅待機・休業命令
新型コロナウイルス感染症対策の外出自粛要請に協力するため自宅待機・休業命令を出すために必要な法的要件とはどのようなものですか。
賃金を支払う限り、使用者に自宅待機命令を出せる
各種の理由に基づき、企業が従業員を出社させるのが不適当と判断する場合、その従業員に対して、それらの事由に応じて必要な期間、自宅待機または出勤停止を命じることがあります。
賃金を支払う限り、使用者には、恣意的な理由や不必要に長期間にわたり人事権の濫用とされる場合を除き、合理的かつ相当な事由がある限り、自宅待機命令を有効に出せます。
しかし、無給の場合、使用者は、従業員の就労を拒否する正当な理由がない限り、民法の帰責事由の有無による責任の負担の原則に照らして(民法536条2項)、賃金支払義務を免れません。
ただし、賃金規程を整備すれば休業手当のみへの範囲への圧縮は可能です。
自宅待機命令には、感染予防等の合理的目的が必要
自宅待機については、就業規則の定めがなくとも、労働者には原則として就労請求権がないと解されており、賃金を支払う限り、使用者には、恣意的な理由や不必要に長期間にわたり人事権の濫用とされる場合を除き、合理的かつ相当な事由がある限り、自宅待機命令を有効に出せると解されています(ネッスル事件・東京高判平2・11・28労民41巻6号980頁)。
ただし、自宅待機命令無効を導く理由として、自宅待機命令が業務上の必要性がなく発せられるような場合は、使用者の裁量を逸脱濫用するものであって無効となるとしています。
新型コロナウイルス感染症への対応としての自宅待機命令には、感染予防等の合理的目的と必要があり、発令できることになります。
労働者の不利益を回避する努力をする
新型コロナウイルス感染症に関連する行政からの協力依頼や要請などを受けて営業を自粛し、労働者を休職させる場合であっても、一律に労基法に基づく休業手当の支払い義務がなくなるものではありません。
休業手当の支払い要否を判断する「使用者の責めに帰すべき事由」である①その原因が事業の外部より発生した事故であるか②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であるといえるか等で総合的に判断されることになります。
休業が不可抗力に基づくもので、法的に休業手当を支払う必要がないような場合には、賃金の支払いも不要ですが、このような場合でも、前提として、労使がよく話し合って、休業中の手当の水準、休業日や休業時間の設定等について、労働者の不利益を回避する努力をすることは必要です。
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運用上のポイント
新型コロナウイルス感染症の拡大防止が強く求められる中で、労基法上の休業手当の要否に関わらず、事業主が自主的に休業し、労働者を休業させる場合については、経済上の理由により事業の縮小を余儀なくされたものとして、雇用調整助成金の助成対象となり得ますので、これを利用して、労働者に不利益を与えないようにすることが必要です。
雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、特例措置が講じられていますので、積極的に利用をすることが望ましいといえます。
雇用調整助成金の申請の手続、要件、特例について随時確認し、迅速に手続ができるように準備しておくことが必要です。
人材マネジメント上のポイント
休業については、当然のことながら、最大限回避することが大切です。
しかし、やむを得ない場合の手段として、以下が挙げられます。
1)対象者を年齢等の属性ではなく、役割・業務内容、モチベーション状態から正確に測定する
2)業績回復を意識して、如何にスムーズに人員を立て直すことができるかどうかを視野に入れる
3)実行に際しては、対象者選定において論理的・合理的な理由を整理して、説明する
合理性・法的根拠を整理して、対応していくことが必要です。
また、現員の従業員のモチベーションを下げることがないように、経営・管理者からのフォロー等を十分に実施することも大切です。
実際には目標の浸透と、適切な評価・報酬等の処遇が不可欠です。
また、休業期間であっても、適度なコミュニケーションを取ることにより、過度な不安の回避と、復帰時におけるモチベーションの維持により、回復時におけるスピードが変わって来ると考えています。