日本版ジョブ型人事制度の効果的な導入:製造業での役割等級制度と職務等級制度の活用事例
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は、あるべき人材像の構築、教育施策展開、さらには、人事DXへの展開に触れました。
今回は、日本版ジョブ型人事制度の導入事例を紹介したいと思います。
事例企業の概要
業種 |
製造業 |
生産拠点 | 国内3拠点 |
売上高 | 約130億円 |
社員数 | 約500名 |
主要顧客 |
各メーカー、卸売業等 |
当社創業50年を迎える電子部品製造メーカーです。
好不況それぞれありましたが、大きなトラブルはなく、順調でした。
これまで人材マネジメントについてはあまり注力せずに、20年程度前の目標管理を運用していました。
昨今、若手層における人材の離職が増え、また技術の伝承もできず、ビジネスが停滞する可能性が出てきました。
そのため、人事制度改定をはじめ、役割等級制度を導入し、評価制度もコンピテンシー評価を導入しました。
しかし、人材の流出は止まらず、さらには管理者をはじめとした従業員の評判もあまり良くありませんでした。
制度導入から1年余りと短く、変更することに躊躇もありましたが、このほど、再度人事制度を見直すことにしました。
現状分析
制度内容は役割等級制度になっていましたが、以下の点に問題がありました。
- 役割等級制度の内容と実際に張り付いている人の役割に大幅な乖離があった。
- 行動評価が単なる情意評価になっている。
- 目標管理の目標の内容が抽象的である。
- 各管理者の評価の視点、考え方が異なる。
結局のところ、制度構築はしたものの、簡単な説明で済ませていたこと、またハレーションを恐れ、現状維持を意識するあまり、将来のキャリアパスに期待を持つことができなくなっている状況がありました。
等級制度の構造検討
当初は役割等級制度の内容を見直すのみでしたが、どのような人材を評価したいか、今後の人材をどの様に考えるのかを整理しました。
その結果、職能的になる可能性がある役割等級制度一本よりも、後継者育成や技術伝承、職務重視の社風等から考えると、職務等級制度も併せて導入したほうがの方がよいという結論になりました。
また、職務導入にあたって、管理者の役割・高度専門職の必要性の有無についても検討しました。
管理職の役割は期待も含めて明確であるということ、管理職以外の人材に関しては、業務の開発・新規業務の取り組み、会社を代表する技術者等の役割を期待しており、それらの人材と、それ以外の比較的ルーティンを担う人と区別したいとのことでした。
職務等級制度の適用については、下位等級と上位等級の一部とし、管理職やキャリアを求められる人材(等級)については、役割等級制度をブラッシュアップすることとしました。
職務調査については、バリューチェーンを職種、職種・本部ごとに展開させ、それをベースに調査票を作成しました。
役割、行動等の考え方を調査対象者の中には混同している人がおり、合計3回の調査、5回以上のインタビューを実施しました。
次に、その職務に対して、レベル分けを行い、そのレベルを数値化しました。
数値算出に関しては20通りの評価基準に基づいて行いました。
職務について、職務ごとに評価(レベル付)を行い、各職務ごとに標準偏差を出し、スコア化しました。
教育体系構築から育成シートへの展開
一覧になった職務に対して、今後どのように取り組むのか、キャリパスはどのようにするのかを明確にし、上位等級になるのかを意識しながら、期中のおけるスキルキャッチをどのようにするのかを検討しました。
さらに当社独自の特性を出すため、あるべき人材像を整理することとしました。
その視点として、行動特性とスキルの2軸で整理しました。
軸の設定として、求める要素として、忠誠心・やる気等、目に見えないものではなく、具体的な行動や発揮するスキル等、「目に見える」ものをベースに整理しないと抽象的なものなってしまうことを周知徹底しました。
行動特性は、さかえ経営のコンピテンシーディクショナリーからそれぞれの職種に求める要素を抽出し、組織・論理的等のカテゴリごとに分類し、傾向を可視化することにより全体のバランスを保つようにしました。
スキルに関しては、ジョブ型制度のメゾットを取り入れ、各業務(業務分掌)ごとに評定を行い、レベル分けを行いました。
スキル・行動特性を抽出した後に、それらを習得するためにどのような形態が望ましいのか、研修・ON-JT、E-learning等の手段のメリット・デメリットを明確にし、習得する要素、その手段を取りまとめると同時に、
研修の場合は、各研修会社に提出するためのRFP(Request for Proposal)を作成しました。
これまで、研修会社が主体になって実施していましたが、あるべき人材像を整理した結果、外部に出す必要がないものについては、社内における研修講師の選定と研修内容を取りまとめて、外部講師以上の効果を出すことができました。
研修等を行うにあたって、どうしてもその場限りになってしまうことがあります。
それを避けるために、研修後に取り組み目標を設定し、3カ月後のフィードバック、改善方針等を記載し、PDCAサイクルを回すことができるようにしました。
また、各人に対して、育成シートを作成し、現状の行動特性・スキルレベルと、目指すべき特性・スキルとのギャップを把握することにより、身に付けるべき内容を明確にし、各人ごとに対する成長意識の醸成を図りました。
さらに、単に職務評価をするだけでなく、到達したいレベルまで、「何をどのようにするのか」「職務に対してどのような姿勢で取り組むのか」を話し合う機会を設定すると同時に、1on1の取り組み方法等を整理し、理解促進に注力しました。
その結果、日常の業務に対する取り組み度合が大幅に変化し、ある程度の数の人材のスキルアップに取り組むようになりました。
一方、それについていけない人材については離職が進みました。
また、昨年(2020年)の新型コロナウイルス騒動については、業務上できる人に関しては在宅勤務が円滑に導入することができました。
ジョブはジョブとして
今回は、日本版ジョブ型人事制度の導入事例について記載しました。
これまで7回にわたり、日本版ジョブ型人事制度について触れていきました。
最近、このテーマに関する多くの論述や書籍等がありますが、弊社の考えとしては、ジョブの範囲を広げるのではなく、あくまでも、「ジョブ」は「ジョブ」そのものとして捉え、人材ごとや組織ごととしての役割は別に考えるということです。
その原則を逸脱すると、ジョブと役割の区別がつかなくなり、結局年功的な運用に陥ってしまうと考えています。
次回は最終回としてこれまでの論点整理をすると同時に、新型コロナウイルス時もしくはその後対応方針として、この先のトレンドと成功への方向性について説明したいと思います。