第1回 人事DXとは何か
最終更新日:2024.10.24
はじめに―人事DX登場の背景―
クラウドシステムの普及に伴い、昨今、AI・RPA、そしてDXといった言葉が盛んに使われるようになっています。
人事の分野においても、ジョブ型制度の導入、終身雇用制を見直す流れのなかで取り上げられています。
具体的には、新卒採用におけるエントリーシートの記載項目、面接時の音声などから分析し評価・判断を下すシステムの導入や、給与計算・社会保険等の手続き作業の自動化を進めている企業も登場するようになりました。
しかし、一方で、受け入れ側の問題から導入への躊躇がある、また、必要性を感じないため検討すらしていない場合もあるのではないでしょうか。
日本の労働力人口は縮小しつつあり、様々な問題が発生しています。
また、人材自身の価値観も「就社」から「就職」へと変化しており、企業はそれらの問題に対応すると同時に、そうした意識を持った人材を活用して業績を上げていかなければなりません。
そのためにも、これまで以上に、少ない人員をどのように活かしていくか、ということに注力する必要があります。
その1つの手段として今、「人事DX」という言葉が登場してきました。
人事DXとはいったいどのような手法・アプローチなのでしょうか。
人事DXとは何か
DXとは、Digital Transformationの略称で、直訳すると、「デジタルを使って変革(変容)させる」意になります。
その変革を「人事」において、もたらすということになります。
実際の人事の事例で触れますと、大きく分けて2つの視点があります。
1は、RPA(Robotic Process Automation)ツール等を用いて基幹業務(給与計算・社会保険手続き業務)そのものの自動化を行う視点、2つ目は、人事関連情報からの分析結果をもとに課題認識、解決策の立案・実行に移すという視点です。
2つ目の視点においては、データ分析の一手段として、AI(Artifi cial Intelligence)を用いたものが多いです。
AIとは直訳すると「人工知能」という意味ですが、さらに「Intelligence」とは、知能のほか、知性・情報、さらには「賢い」という意味があります。
必要なデータから、人間の作業・手間があまり入ることなく、問題点を明らかにすると同時に、課題(問題の原因)を導き出したりすることができます。
上記のように、人事DXとは、以下の2つに分類されます。
(1) 基幹業務(給与計算・社会保険手続き業務)の自動化
(2) 人材マネジメント上の問題・課題の発見
(1)については、給与計算ソフトの普及により自動計算が進んできましたが、その前の処理、例えば、勤怠時間の集計や異動等変動情報の反映、変則的な制度への対応を自動化するということが主な論点です。
(2)については、入退社情報や年齢、勤続年数、適性検査結果などに代表される人事データから、退職傾向や優秀人材の傾向の把握、さらにそれをもとに、様々な視点から問題の原因分析を行っていくという主な論点があります。
また、それ以外には、採用説明会や面接時の音声や画像を解析し、採用(選考通過)基準の判断、さらには採用の可否などの判定を行うということができます。
以上のように、人事DXは非常に広範囲にわたっています。
それぞれの論点が達成できた時の効果としては、以下の2点になります。
(1)業務の効率化等による、工数の削減
(2)社内の問題に対する原因の把握、解決策立案の検討材料の入手
(1)については、比較的、分かりやすいかと思われますが、(2)については、イメージがつきにくいかもしれません。
詳細は後述しますが、企業ごとに実施内容やその具体的効果は異なります。
個々に異なるのは当然ですが、大きくは企業規模や業種ごとに異なるものと考えています。
データということから、基本的にはその情報は多ければ多いほど最適な分析ができます。
そのような点では、巨大企業のほうが圧倒的優位であるのは事実です。
優位というのは、人材の動向を把握し、それに対して最適なアクションを起こしやすいということです。
しかし、本当に必要なのは、ある程度の従業員規模があり、一定数の採用・育成等人材の質の確保が求められるなかで、それが難しい中堅企業ではないかと考えています。
しかし、人事DXの導入においては、人事以外(特に財務・管理会計)の分野より導入が難しいという背景があります。
最大の障害は、給与データや入退社情報以外は定性的なものが多いからです。
他にも評価結果なども定量的なデータですが、ある程度恣意的に行われている傾向があり、定量データとして活用しにくい場合がほとんどです。
また、担当者が「文系」である場合が多く、データ解析等の知識がないことが挙げられます。
導入に向けて、まずは考え方を整理する必要があります。
人事DXは新しい概念なのか
このような概念は以前から、BI(Business Intelligence)というものがありました。
これは、財務経理や営業・製造等の活動データなどのビッグデータから、経営における問題点、それに対する原因等をデータ分析の視点から導き出すというものです。
しかし、当初のBIツールもクラウドという概念がなく、多くの人がどこでも共有できるような環境ではありませんでした。
また、人事データの収集という概念も以前からありました。
人事管理ソフト等の名称で、各給与計算ソフトメーカーやERPパッケージの1つとして存在していました。
しかし、その活用に至ることは少なかったと認識しています。
理由としては、基幹業務である給与計算に直接関係がなく、分析用のデータを入力(情報収集)しなくても、ある程度機能するように活用できたためです。
ビッグデータによる要因分析という概念はすでに登場していました。
クラウドという概念はありませんでしたが、単なるアクセス権限・閲覧上の問題であり、それほど浸透を阻害していた要因ではないと考えています。
また、人事業務の自動化という概念も、まだまだ既存の範囲内においても十分な効率化を行っていない企業も多くあります。
つまり、人事DXという言葉は新しい用語ですが、基本的な概念はこれまでにもあったもので、言葉のイメージほど革新的なものではないと考えられます。
次回は、なぜ人事という領域においてデータ収集、さらにはその先の「分析」にたどりつけないのか、その理由と対応策について触れていきます。