第7回 人事DX化の推進事例
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は,体制等の構築と,外注化,外注の視点とDX人材の採用・育成等について触れました。
今回は,弊社さかえ経営による推進事例の説明をしたいと思います。
企業概要(P社)
業種 | : | 製造/卸・小売業 |
生産拠点 | : | 国内20,海外3 拠点 |
売上高 | : | 約120億円 |
社員数 | : | 約400名 |
主要顧客 | : | エンドユーザー,販売会社等 |
導入にあたって
事例は,女性客をターゲットにした商品を製造・販売している会社です。
職場自体も若い女性が多く,現場責任者(店長)クラスの人材の定着も一部では進んでいません。
店舗展開ということもあり,各店舗の管理会計システム構築は進んでおり,ある程度のデータについては取得できますが,それが活用できていない状態でした。
また,社内の人事業務においても,店舗の人材が中心ということもあり,現場で独自の手当の創設や勤怠において手作業が多く発生する現状がありました。
そのため,給与計算のミスが増加傾向にあり,人員も増加傾向にありました。
このため,人事関連系システムの統合に伴うデータの整理,給与計算等の基幹業務の効率化,さらには今後予測される人材の不足に対して,人事関連のデータ分析とそのアクションプラン立案に着手しました。
問題課題と解決策
給与計算業においては,人員数が多いにもかかわらず,分業体制が明確になっており,各作業の属人化が進んでおり,作業の工程が分からない部分が多々ありました。
そのため,データの集約までのプロセスという視点で,ボトルネックになっている業務等を洗い出しました。
また,現場ごとの手当については,できる限り反映をさせることを目指しながら,不平等なもの,主旨が不明なものについては,統廃合等を行いました。
データについては,複数の管理システムの導入,さらには一部エクセル管理等,データの種類は多いものの担当者ごとにバラバラに管理されていました。
そのため,まず,データの統合を行い,データ項目ごとに収集経路や更新の頻度から判断し,収集の重複等を解消していきました。
また,もう1つの問題として,日々の業務において,「必要な業務が回ればよい」という意識が強く,情報が“歯抜け”になっている場合が多く,担当者の意識改革が必要でしたが,アウトソーシングすることにより,すべての業務を洗い出すことを目指しました。
給与計算等業務アプローチ
給与計算に関する業務整理のアプローチとしては,個々の業務からアプローチするのではなく,計算結果(給与台帳)や手続きにおける記載内容の結果から,情報収集経路を洗い出すこととしました。
インタビュー対象者が多く,かつ業務が重複もしくは不要であることが予測されたので,よりスピーディーに分析・整理を行うため,逆算的な手法を試みました。
その結果,業務の効率化に向けて以下の視点が必要であると判明しました。
- 個別対応による手計算作業の発生
- データ統合の不備による作業の重複
- 役割細分化による過度な情報の連携が発生
1.に対しては制度の整備を進めると同時に,ある程度,パターンごとに分類し,単純化しました。
2.については,統一のクラウドデータベースを導入(決定)し,そこからデータを収集・閲覧するようにしました。
3.については,アウトソーシング化するため,すべてにおいて削減できると考えました。
また,業務の統廃合,アウトソーシング化において,業務が変更となる従業員に対するケアについては,後述する人材の特性を活かした配置転換を検討するとともに,適切な法的手続きに則り処遇等の対応をしていきました。
データ分析のアプローチ
データ分析の目的は,明確でした。優秀な現場責任者(店長)の姿を可視化し,それに向けて,採用や研修等のアプローチの構築が目的です。何をもって優秀な拠点とするかは,売上等その店舗の営業成績などで選定しました。
しかし,単なる一時点な観測では,場所の立地等,管理者の優秀さとは関係ない場合も想定されるため,予算達成率,離職率(数),従業員満足度などの人事数値をもって選定しました。
一方で,人材の評価軸については,勤続年数・マネージャーにおける評価,さらにはコンピテンシー調査や従業員意識調査などの結果などをベースに検討しました。
また,退職者のデータも収集することにより,退職者動向の把握を目指しました。
現職者は従業員意識調査やコンピテンシー調査など追加の項目を収集するため別途調査を行いましたが,退職者に関しては,それらが実施できないため,分析目的を
①優秀な管理者の定義
②退職者と在職者の動向
の2つに分け,分析アプローチを完全に分離しました。
データの作成については,エクセル等で十分であり,分析についてはピボットテーブルでもよいですが,様々な角度から検証するため,BI(Business Intelligence)ツール等を用いたほうが,容易にデータの概要,加工データを作成できるため,分析スピードが増すと思います。
次に分析そのものですが,現在手軽に使うことができるAI(Artificial Intelligence)も普及しており,活用するほうが望ましいですが,まだまだ学習要素が少ないと思われるため,それらを全面的に信用するのではなく, 1 つの“手がかり”として,追加の検証作業等が現時点では必要になってくると考えています。
最大の注意点と今後のアクション
前回も触れたように,最大のポイントは,意思決定のスピードを速めること,またトライ&エラーを高速で繰り返すことです。
今回は比較的急成長した会社であるため,それらのポイントをもともと持っていましたので,特に問題はありませんでした。
また,優秀な管理者像を把握した後,教育プランの構築や採用基準の見直しなどの全社展開すべきものはもちろんですが,まずは管理者の育成につなげるため,面談の内容を変更したり,部下への接し方等の見直しを行うため,別途研修,そしてそのアフターフォローを速やかに実施し,スピーディーに離職防止等の一定の効果を得ることができました。
今回は弊社さかえ経営による人事DXの推進事例を紹介しました。
誌面の関係上,ある程度概念的な説明に留まっていますが,イメージはつかめるかと考えています。
次回は,これまで触れてきた人事DXの総括と今後の展望について説明したいと思います。