遅刻常習者にトイレ掃除を命じることは可能?業務命令とパワハラの境界
最終更新日:2024.10.24
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「見せしめ」処分をしたら、後に訴訟問題にならないか?
何度注意しても遅刻を繰り返す社員がいるため、他の社員に対する「見せしめ」の意味も含めて、月に一定回数以上遅刻した場合に社内のトイレ掃除を命じることを検討しています。
当社の懲戒規定には譴責や減給、降格などの処分はあるものの、トイレ掃除という処分は明記されていませんが、業務命令として指示可能と考えています。
この処分によって、後日社員から訴訟問題が発生しないでしょうか。
懲戒規定に「トイレ掃除」が記載されていれば可能
ただし、その際には業務命令権の濫用やパワーハラスメントに該当しないよう注意が必要です。
懲戒処分を命じるためには、就業規則にその定めが必要です。
従って、会社の懲戒規定にトイレ掃除という処分がない限り、懲戒処分としてトイレ掃除を命じることはできません。
業務命令としてトイレ掃除を命じることができるかどうかは、労働契約に基づくものです。
「見せしめ」でトイレ掃除を命じるのは、違法の可能性も
業務命令が懲罰的であると、濫用と捉えられる可能性があります。
ただ、遅刻を繰り返す社員がいる場合は職場の規律維持が必要とされ、また社内掃除が会社の業務として一般的になっている場合にはトイレ掃除が肉体的、精神的に過酷であるとは言えず、それだけで業務命令権の濫用とは判断しにくいでしょう。
しかしながら、質問のように「罰として」「見せしめの意味で」トイレ掃除を命じる場合には、それが違法である可能性があります。
たとえ使用者が業務命令として命じられる範囲の行為であっても、その業務命令が権利の濫用(業務命令権の濫用)となるときには違法となります。(労契法3条5項参照)
そのため、当該労働者は慰謝料を請求することができ、その主張が認められる可能性があるといえます。
労働契約の解釈、就業実態で総合的に判断を
労働者は、労働契約によって使用者に対して一定範囲での労働の自由な処分を許諾しています。
そして使用者は「労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内」で、業務命令により指示命令できることになります(日本電信電話公社帯広局事件・最判昭和61・3・13労判470号6頁参照)。
ただし、労働契約の解釈や現実の就業実態、労使慣行等を総合的に判断する必要があります。
裁判例には、組合員バッジの取り外し命令に従わなかった旧国鉄職員に、業務命令での火山灰の除去作業が労働義務の範囲内に含まれ、違法なものとはいえないとしたものがあります(旧国鉄鹿児島自動車営業事件・最判平成5・6・11労判632号10頁)。
契約締結時にトイレ掃除は外注である旨の特段の合意がなく、会社において労働者が日常的に社内の掃除等を行っているような状況であるならば、トイレ掃除自体が予想外の業務ではなく、社会通念上相当な程度の業務であるため、業務命令として命ずることができる可能性があります。
指導を越えた「見せしめ処分」は問題あり。パワハラの可能性も
質問にあるような、「罰として」「見せしめの意味で」業務命令としてトイレ掃除を命じることには問題があります。
なぜなら、労働者に制裁を与える場合には、就業規則で懲戒処分の事由や手段を明確に規定し、その内容に沿って行う必要があるからです。
ただし、契約締結時にトイレ掃除は外注である等の特段の合意がなく、労働者らが普段から社内の掃除等を行っているような状況である場合、業務命令としてトイレ掃除を命じることはできます。
とはいえ、それがパワーハラスメント(パワハラ)行為と捉えられる可能性については十分に注意が必要でしょう。
遅刻者にはまず「注意・勧告」、改善しないなら「減給・降格」が妥当
また、最近のパワーハラスメントに関する裁判例や法令も考慮する必要があります。
社会通念上許容される行為が全て合法とは限りません。
職場でのいじめや嫌がらせなどパワーハラスメント(パワハラ)行為の防止を企業に義務づける改正労働施策総合推進法が令和2年6月1日から施行(中小企業は令和4年4月施行)されており、企業は、
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されると定義されたパワハラにつき、働く人の就業環境が害されないよう、
雇用管理上必要な措置をとることが義務づけられています。
違法とされる場合もありますので、指導を越えた行為については注意が必要です。