スカウトした部長が期待外れ?能力不足が明らかになった時の適切な対応法
最終更新日:2024.10.24
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高額な報酬で雇った部長が期待外れだった場合、解雇できる?
A社は一時は急速な伸びを見せていましたが、業績が下降し、既存のリーダーシップに課題を感じていました。
これを解決するため、MBA(経営学修士)保有者であるBを見つけ、新しく設けられたマーケティング部門の部長に任命、そして高額な報酬で雇うことにしました。
彼の役割は、マーケティングの戦略を構築し、新製品の販売のための具体的な提案をすることでした。
ところが、採用から半年経過した現在、Bからは提案がなく、A社は彼を解雇すべきと考えていますが、大丈夫でしょうか。
キャリア採用の従業員が能力不足の場合、解雇が認められる可能性が高い
下位の職位への再配置などの解雇対策を取らなくても解雇が認められる可能性が高いですが、最初に退職を促すところから始めるべきです。
特定の役職や専門・高度な管理能力が求められ、その能力を基にキャリア採用(中途採用)された従業員がその期待を果たせなかった場合、年功序列制の下で昇進した従業員に対する対応とは異なります(裁判例 岩出・大系533頁~555頁参照)。
例えば、持田製薬事件・東京地判昭和62・8・24(判時1251号133頁)では、質問と似たようなケースとして、
とし、さらに
としました。
このような傾向は現在も続いています。
<裁判の事例>
フェイス事件(東京地判平成23・8・17労経速2123号27頁
高額報酬、職種特定の雇用契約で職種消滅を理由とする解雇は、通常の従業員の解雇よりも比較的容易に認められる
日本べリサイン事件・東京高判平成24・3・26労判1065号74頁
内部監査室長として雇用を継続することが困難な事由が生じていると認められ、労働者を相応の役職の幹部職員として雇用を維持することについても、会社経営陣や他の職員との信頼関係の毀損により、もはや困難になっている
アスリーエイチ事件・東京地判平成29・8・30労経速2334号28頁
代表者の次の地位たる総合管理職兼営業部長として採用された者が、①営業部長として営業業務が業務内容に含まれていたにもかかわらず、在籍した3カ月間、新規取引先を1件も開拓せず、②大手取引先との関係が悪化していたにもかかわらず、同社との関係悪化を認識できず、何ら有効な対策を採らなかったこと等の事情を勘案
Ascent Business Consulting事件・東京地判平成30・9・26労ジャ84号44頁
年齢、経験等に照らして一定程度の分別を求められてしかるべき立場にあり、かつ一定程度の能力を有することを前提とし、高額の報酬をもって即戦力として会社に迎え入れられたものであることに照らすと、その改善可能性を過度に重視することは相当でない
「曖昧な期待能力の基準」だと、解雇までは認められない
しかし、津軽三年味噌販売事件・東京地判昭和61・1・27(労判468号6頁)の事例を考えると、常務取締役・東京営業所長が営業成果拡大を条件に採用され、この条件が満たされなかったことから降格・賃金減額が行われましたが、具体的な特約がないとされ、元の地位の確認が認められました。
営業所長は単に役員(常務取締役、東京営業所長)としての役割だけでなく、主としては東京エリアの営業成績を向上させることを目的とした雇用がなされたものでした。
役員としての役割や地位は営業成績を向上させるために活用されるための副次的なもので、毎月の支給は、役員報酬ではなく賃金であり、所長の雇用の主要な動機は、東京エリアの営業成績を向上させることで、社長から全体的な状況を説明され、彼もそれを承認し、営業成績を向上させると約束しました。
しかし、その営業成績は具体的な数字で示されず、それに到達しなければ会社が一方的に彼の労働条件を不利に変更できるほど具体的なものではありませんでした。
したがって、彼と社長の合意は、単に東京エリアの営業成績を向上させるために努力するという約束にとどまっていました。
求める技能を数値化するなど具体的に記述を
専門職や特定の技能、経歴、または管理力を基にした採用を行う際には、雇用契約や募集条件にそれらの技能が前提となることを明記する必要があります。
可能な限り、数値化など具体的な記述を行うことが望ましいと言えます。
期待能力の基準等が不明瞭かつ客観的でないことの注意
津軽三年味噌販売事件の事例を教訓にすれば、能力の評価基準や期待が明確で客観的でない場合、紛争が生じやすいという認識を持つことが必要です。
以下に過去に起きた裁判の事例をご紹介します。
<裁判の事例>
ホンダ運送事件・大阪地決平成12・3労判865号85頁
システム開発の管理部長付として中途採用された者の能力不足等が理由とされた解雇無効。
外資系企業での中途採用者については、就職が容易で保護が不要と見られがちですが、具体的な改善策が要求され、その修正観察期間・能力不足の判断時期が早すぎるという理由で無効とされる事例も指摘されています
クレディ・スイス証券(休職命令)事件・東京地判平成24・1.23労判1047号74頁
「改善可能性に関する将来的予測を的確に考慮した解雇理由であるということができるかどうかについて疑問があるということができるどうかについて疑問がある上、解雇の最終的手段性の点からも問題があり、外資系企業において高い能力が期待されてしかるべきいわゆる中途採用の高額所得者であることを前提としてもなお、客観的合理性を欠く」
プルーム・バーグ・エル・ピー事件・東京高判平成25・4・24労判1074号75頁
「中途採用の記者に対し、PIP(Performance Improvement Plan)と称する業績改善プランを3度実施した後にした勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇は、会社から具体的な改善矯正策を講じていたとは認められず、PIPで設定された目標に対する達成度合いからすれば、記者が指示に従って改善を指向する態度を示していたと評価し得ることなどを理由に無効」
特定の才能や成果に関する約束が存在したかが重要
現実的な対策としては、Bに対し退職を勧め、もしBがこれを拒否した場合は、解雇の予告または予告給付金を提供した上で(労働基準法第20条)、一般的な解雇を行うべきです。