退職金の支払い条件を「後任への引き継ぎ完了」にするのは一部は可能だが全額は難しい
最終更新日:2024.10.24
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条件付き退職金支給制度を創設。条件を満たさなかった場合、支給しなくても許される?
これまで退職金の支払いを行っていなかったのですが、人事制度の改革の一環として退職金制度の創設を考えています。
『勤続5年以上の正社員』、そして『引継ぎを終えた者』を対象(=引継ぎ無しで単独で退職するケースは支給対象外)にしたいと思いますが、このように規定した場合、引継ぎがされなかった場合の退職金不支給は許容されるのでしょうか。
全額不支給にする規定は、実現が難しい
と言えるでしょう。
退職金の性質
退職金の算定は通常、基礎賃金に対して勤続年数に応じた支給率を掛ける方法で、賃金の後払いの性質があるとされています。
また、退職金には、基本給を基に算定し、勤続年数で支給率が増加し、自己都合と会社都合で区分する等の要素から、功労報酬としての性質も併せ持っています。
退職金不支給規定の必要性
従業員が会社を自由に退職できるため、退職を選んだ者には引継ぎを可能な限り行わせるべきです。
とも言えるでしょう。
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退職金規定の具体化、減額の範囲、非行との合理性に基づいて構築を
退職金の不支給または減額規定が、
と
に反するか疑問がありますが、労働者への成果分配や効果査定による報酬があるため、一部減額したとしてもこの原則に反するとは限りません。
また、規定の具体化、減額の範囲、非行との合理性に基づき、適切な規定を作る必要があるでしょう。
退職金規程・マニュアル作成上のポイント
規定に明記することの必要性
退職金の後払い性質や労働者の予見可能性の観点から、就業規則や退職金規程で支給・減額の条件をはっきりと定め、
する必要性があります。
規定の合理的判断
退職金は功労報償的な側面を持つため、
です。
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後払い性質の退職金では、無制限の不支給規定は認められない
退職金が賃金の後払い的な性格を持つことから、退職金不支給規定を無制限に認めるわけにはいきません。
従って、退職金の不支給または減額規定は、退職金の性格を反映させ、労基法やその精神に反しない、社会通念が許容する範囲で合理的に判断されるべきです。
裁判例には、
とされるものもありますが(大宝タクシー事件・大阪高判昭和58・4・12労判413号72頁)、
これに全面的に依存するのは批判もあるため危険である
と言えます。
具体的に、退職金の不支給や減額規定の効力と、減額規定の具体的適用の妥当性から評価されます。
また、規定の効力は目的、内容、減額の範囲、退職金の特性などで判断されます。
会社側から見れば、引継ぎの実際の必要性は高いと言えるでしょう。
反面、引継ぎ業務は、以前の業務を引き継ぐだけなので、労働者にとっては負担ではありません。
労働契約の当事者間では、信義則に基づく適切な引継ぎが必要とされます。
「引継ぎをしないから退職金を全額支給しない」という判断には問題がある
したがって、
と言えます。
しかし、「引継ぎをせずに退職金を全額支給しない」との判断は、退職金の後払い性質を考慮すると問題があるでしょう。
このように
と見られます。
とはいうものの、規定がない場合はそもそも減額することは不可能です。
まずは予防策の一環として、就業規則に退職金の不支給や減額理由を明記した
です。
具体的には、
就業規則や退職金規程などにおいて、「社員が退職又は解雇されたときは、会社が指定する日までに、会社が指定した者に業務の引き継ぎをしなければならない。
この引継ぎをなさない社員に対しては、退職金を一部(または全額)支給しないことがある」
のような条項が可能です。
業務の性格から引継ぎの必要性が高い場合など、全額不支給が有効となる可能性が全くないわけではないですが、可能性としては低いと考え慎重に検討するべきです。
退職金の性質、引継ぎ業務の重要度、その他の引継ぎに関する状況を勘案し、
が現実的でしょう。