中途採用社員の給与は同年代のプロパー社員(新卒入社の社員)にあわせるべきか?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
中途採用された社員から「同じ仕事をしているのに、生え抜きの社員より給料が低い」というクレームがあります。
彼らは、年次に応じた給与体系に納得がいかず、「生え抜きの社員との給与差を補填してほしい」と主張しています。
しかし、このような主張が法的に認められる可能性はあるのでしょうか。
解説(基本的な考え方)
中途採用時の給与設定は、一般的に前職の給与、年齢、能力などを考慮し、既存社員の給与水準と比較しながら行われることが多いです。
しかし、このようにして採用された社員から、入社後の給与に対する不満の声が挙がるケースも少なくありません。
そこで、以下では、中途採用社員が抱く不満がどのような根拠に基づいているのかに着目し、その合理性を検討していきたいと思います。
採用時の説明と違うと主張された場合
まず、中途採用社員からの一つの典型的な不満として、「採用時には新卒同年次定期採用者(大学卒業年次が同じで、卒業と同時にその会社に入社した社員)と同程度の給与が支給されると言われていたが、実際には彼らよりも給与が低かった」という主張があります。
労働条件通知書や雇用契約書に記載されているとき
●労働条件通知書や雇用契約書が存在する場合(労働基準法則第5条第1項第3号により、賃金は書面で社員に明示する必要がありますので、通常は労働条件通知書が交付されます)、
●それらの内容が法律(例えば、最低賃金を下回っていない、就業規則や労働協約所定の条件を下回っていない等)に違反していない限り、
●特段の事情(例えば、労働条件通知書交付後に給与について別途取り決めをした等)がなければ、
書面に記載されている給与額が雇用契約の内容として認定されることが一般的です。
つまり、その場合、基本的に労働条件通知書や雇用契約書に記載されている給与額について争うことは難しいとされます。
労働条件通知書や雇用契約書を取り交わしていないとき
一方で、労働条件通知書を交付せず、雇用契約書も取り交わしていない場合は、採用過程でどのような説明ややりとりが行われたかが重要な問題となります。
中途採用された労働者が、新卒同年次定期採用者と同等の給与を期待していたが、実際には下位の格付けで給与が支給されていたため、差額の支払いを求めて訴えた事案があります。
日新火災海上保険事件(東京高判平成12年4月19日労判787号35頁)の事例
このケースでは、会社は内部的には中途採用者の給与を新卒同年次定期採用者の下限に設定していたものの、求人広告には「例えば89年卒の方なら、89年に入社した社員の現時点での給与と同等の額をお約束いたします」と記載し、面接や会社説明会では新卒同年次定期採用者との差別をしない趣旨の説明をしていました。
これに対し、裁判所は、求人広告の記載や面接・会社説明会での説明に基づき、新卒同年次定期採用者の平均的な給与水準に従うとの合意が成立していたとは認められないとしながらも、会社が応募者に対してそのような給与待遇を期待させる説明をしていたことは、労働基準法第15条第1項に違反し、雇用契約締結過程における信義誠実の原則に反すると判断し、慰謝料の支払いを認めました。
このように、採用過程での説明の仕方によっては、差額賃金や慰謝料の支払いが認められる可能性があり、注意が必要です。
同一価値労働同一賃金の原則に反すると主張された場合
同一価値労働同一賃金の原則とは
中途採用社員から「新卒同年次定期採用者と同じ仕事をしているのに、給与が低いのは、同一価値労働同一賃金の原則に反する」との主張が出されるケースを考えることができます。
同一価値労働同一賃金の原則は、同じ労働であれば同じ賃金が支給されるべきだとする考え方で、これまで男性社員と女性社員、または正規社員と非正規社員間の賃金格差の問題に主に焦点が当てられてきました。
丸子警報器事件の事例
例えば、正社員と臨時社員の賃金格差が争点となった丸子警報器事件(長野地裁上田支部平成8年3月15日判決、労判690号32頁)では、臨時社員の賃金が同一労働・同一勤続年数の正社員の賃金の80%以下である場合、労働基準法第3条(均等待遇)および第4条(男女同一賃金原則)の根底にある均等待遇の理念に反して公序良俗違反になると判断し、正社員の賃金の80%との差額に相当する損害賠償請求を認めました。
今回の事例では?
本件は、性別や雇用形態に基づく賃金格差ではなく、同じ仕事をする生え抜き社員と中途採用社員の間の賃金格差が問題となっています。
関連する法律の規定として、労働契約法第3条第2項では
と定められています。
ただし、この規定は抽象的であり、具体的な解釈においてどのように適用されるかは必ずしも明確ではありません。
(西谷敏・野田進・和田肇編「別冊法学セミナー新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法」日本評論社330頁参照)。
いずれにしても、
と考えられます。
また、
とされます。