タイムカードの代理打刻に懲戒解雇は重過ぎる処分か?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
ある社員が他の社員に依頼して、タイムカードの代理打刻をしていることが発覚した場合、会社はどのような対応が求められますか。
解説(基本的な考え方)
タイムカードの打刻にはどのような意味があるのでしょうか。
多くの会社では勤怠管理の方法としてタイムカードを利用しています。
このタイムカードは、単に勤怠管理のための資料に留まるのでしょうか。
それとも、タイムカードに打刻された時刻を労働基準法上の労働時間(実労働時間)として扱う必要があるのでしょうか。
以前の裁判例では、タイムカード打刻の意味について、
としたものがあります(三好屋商店事件・東京地判昭和63年5月27日労判519号59頁)。
トラブル回避できない場合のリスク
しかし、近年では、
と判示する裁判例が増えています。
これは、
●光和商事事件(大阪地判平成14年7月19日労判833号22頁)
などに見られます。
さらに、
●日本コンベンションサービス(割増賃金請求)事件(大阪地判平成8年12月25日労判712号32頁)
●医療法人大寿会(割増賃金)事件(大阪地判平成22年7月15日労判1023号70頁等)
といった裁判例もあります。
運用上のポイント
タイムカード打刻の意味は、最終的には各会社における利用目的や管理実態によって異なります。
しかし、従業員がタイムカードを打刻する場合、会社はその打刻時刻が労働時間の開始と終了と推定されること、そして開始から終了までの時間から休憩時間を引いた時間が労働時間と認定される可能性が高いことを理解する必要があります。
そのため、会社はタイムカードに打刻された時刻が労働時間の開始及び終了と認定されることを前提に、日常の労働時間管理や残業代の計算を行うべきです。
とされるでしょう。
人材マネジメント上のポイント
タイムカードの代理打刻を依頼した社員に懲戒処分を課すことは可能か?
また、代理打刻を行った社員に対する対応はどうあるべきでしょうか。
前述の通り、タイムカードは勤怠管理に使用され、そこに打刻された時刻は労働時間の始期及び終期と事実上推定され、残業代計算の基礎となり得ます。
タイムカードの打刻は正確である必要があり、代理打刻などの不正打刻は許されません。
特に、
したがって、不正打刻を行った社員には重大な責任が伴います。
そのため、タイムカードの不正打刻が発覚した場合、会社は不正を行った社員に対する懲戒処分を検討することになります。
タイムカードの不正打刻を理由とする懲戒処分の効力に関する事例として、
●八戸鋼業事件・最高裁第一小法廷昭和42年3月2日判決(労判74号57頁)
があります。
この事例では、原審が他の社員に代わって退社時刻をタイムレコーダーに不正打刻した社員の行為を懲戒事由に該当すると認定しつつも、
として、不正打刻を行った社員の懲戒解雇を無効と判断しました。
しかし最高裁は、会社が
との方針を掲示し、全社員に周知徹底していた点に注目しました。
該当社員がこの警告を知りながらも不正打刻を行った事実を踏まえ、
と判示し、原判決中の会社敗訴部分を破棄し、原審に差し戻しました。
この最高裁の判断は、社内で不正打刻が問題視され、会社が不正打刻への解雇方針を周知徹底していた事案の特殊性を考慮したものと解されます。
この事例からは、タイムカードの不正打刻に対して厳しい懲戒処分が認められる場合もあることが理解できます。
他方、
●社団法人神田法人会事件(東京地裁平成8年8月20日判決、労判708号75頁)
では、始業から15分以内の遅刻やタイムカードの改ざんを繰り返した社員が普通解雇または懲戒解雇された事案で、
としたものの、
等を考慮し、解雇を無効と判示しました。
●阪奈中央病院事件(奈良地裁昭和55年10月6日決定、労判357号69頁)
タイムカードの不実記入や無断欠勤を理由に看護婦見習(呼称は当時のもの)が普通解雇された事案では、
として、解雇を無効と判示しました。
上記裁判例の傾向を踏まえると、タイムカードの不正打刻を理由とする懲戒処分は、不正の態様、回数、期間等に応じて、例外的に懲戒解雇などの重い処分が有効になることもあるものの、
通常の事案では、反省や改善の機会を与えずに直ちに懲戒解雇や労働契約の解消を行うと、処分が過重と判断される可能性が高くなります。
まとめ
タイムカードの代理打刻には、依頼した社員と代理で打刻した社員の双方に対する懲戒処分を検討します。
処分の軽重は、社員の立場や関係性を踏まえケースバイケースで判断されますが、しばしば双方に同様の懲戒処分が課されます。
更には、
適切な時間管理を行わなかったとして、社員の上長も処分の対象になる可能性があるといえます。