社員が接待費を私的に流用した場合の適切な対応。会社は厳格な懲戒処分を検討する
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
社員同士で飲食をしたにもかかわらず、その飲食代金を、接待交際費として会社に請求し、支払を受けている社員がいます。
このような場合、会社としてはどのように対処すればよろしいでしょうか?
解説(基本的な考え方)
通常は懲戒処分の対象となり、処分の内容としても重い懲戒処分を選択しなければならない場合が多いといえます。
処分の内容
最終的に処分の内容を決定するにあたっては、
- 行為態様
- 不正流用の金額
- 当該社員の地位、立場
- 過去の処分例との均衡
などを考慮する必要があります。
しかし接待交際費を流用した社員に対しては、
原則として懲戒解雇を視野に入れた厳しい態度で臨むべきですし、流用された接待交際費相当額は会社に発生した損害ということになりますので、当該社員に対する損害賠償請求をする
ことも検討します。
さらに、
・そのような権限を有していない社員が経理担当者等を騙して行った場合には詐欺罪(刑法246条)
が成立する可能性もあるため、刑事告訴の検討も視野に入れておく必要があります。
実際の裁判例
接待費の不正請求・清算を理由とする懲戒解雇の有効性が問題となった裁判例として、メディカルサポート事件・東京地裁平成12年2月28日判決(労判796号89貢)があります。
こちらは、
調剤薬局の経営などを行う会社の営業社員が、上司や他の社員との飲食にあてた費用について、接待費名目で不正に請求・清算(不正に請求された接待費のうち約34万円は未精算・約27万円は清算済み)していたという事案
です。
同裁判例では、
本件解雇は、「いずれも経費の不正請求又は不正清算であることを理由にされたものというべきであり、このような経費の不正請求及び不正清算は企業秩序維持の観点からは被告としては到底容認することができないものと考えられる」
として、懲戒解雇を有効と判示しています。
厳格な処分を適用するにあたって
これまでの経緯を踏まえて
これまでも接待交際費を流用している社員がいることを把握していたにもかかわらず、金額が軽微等の理由で黙認していたというケースも考えられます。
こような会社では、今後新たに接待交際費の流用が発覚した場合でも、
同じ規定に同じ程度違反した場合には、これに対する懲戒は同じ程度でなければならないという「公平性の要請」
への考慮が必要です。(菅野和夫『労働法(第10版)』504貢)
「公平性の要請」が考慮され、当該懲戒処分は権利濫用であると判断される可能性
があることに注意が必要です。
今後にむけた対応策
しかし接待交際費の流用は刑法上の犯罪も成立し得る重大な非違行為のため、今後は重い懲戒処分を課すことができるように土壌を整えておくことが必要です。
その為の最初の対応策としては、まず接待交際費を流用した社員に対し、
- 口頭または書面で同じ不正を繰り返さないよう注意、指導する
- 譴責等の軽い懲戒処分を課す
ことから始めます。
その上で、
- 接待交際費に関する社内規定を見直す
- 違反した場合の処分について明確なルールを定める
- 今後接待交際費を流用した場合には、規定に則って厳しい処分が課されることになる旨を警告する
などにより、接待交際費の流用について、今後は毅然とした態度で臨む方針であることを社内に周知徹底します。
その上でなお不正を行う社員がいた場合には、ルールに沿って厳格に処分するようにして下さい。
これまで接待交際費の流用を黙認していた会社であっても、このような段階を踏んだ対応をしておけば、新たに接待交際費の流用が発覚した際に重い懲戒処分を課すことが可能になると考えられます。