感染症の疑いのある社員が出社しようとする場合、賃金を支払う前提で自宅待機の命令が可能
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
感染症の疑いがあるにもかかわらず、いくら止めても出社してくる社員がいます。
このような場合、どのように対応すれば良いでしょうか?
解説(基本的な考え方)
出社を拒むことができるか?
結論から言うと、
です。
なぜなら、労務を提供することは、労働者の義務であって権利ではありません。
すなわち、労働者に就労請求権はないからです。
社屋への立ち入りを禁止できるか?
会社には施設管理権があることから、一定期間社屋への立ち入りを禁止することが可能です。
これは部外者だけでなく、社員についてもあてはまります。(社員は一般的に企業施設への立入りが許されているが、それは、会社の包括的な許諾があるから)
ただ、立ち入り禁止を命じたにもかかわらず立ち入りを強行する社員に対して、感染が疑われるだけの状況では、実力行使まではできません。
会社側の対応としては
- 直ちに退去するように警告する
- 立ち入りの禁止を告げる
のような平和的方法に限られるのが現状です。
自宅待機命令について
自宅待機命令を出すべきケース
感染症に感染した社員を出社させると、職場内で集団感染するおそれがあります。
その場合、業務遂行上の支障に加えて、会社側が感染症の疑いのある社員を出社させ、集団感染を引き起こしたことについて、安全配慮業務違反を問われかねません。
その為、下記に該当する場合、は自宅待機命令を出すことが必要になります。
①就業禁止事由に該当する(安衛法68条、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律18条)
- 当該社員が「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」(安衛法68条、安衛則61条1項1号)
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条が定める感染症にかかった者
自宅待機命令の検討が可能なケース
また、以下のような場合でも、自宅待機命令を出すことを検討するべきでしょう。
②就業禁止事由に該当するかは不明なときでも
- 就業規則に、感染症の疑いがある社員に対して自宅待機を命じることができる旨の根拠規定がある場合
③就業禁止事由に該当するかは不明で、就業規則にも根拠規定がない場合でも、十分に感染の疑いがあるとき
- 同居の家族に感染者がいるとき
- 感染症蔓延中の外国から帰国した社員(体調が悪いと訴えている)
- 職場周辺地域で感染症が蔓延しているときに、当該感染症への感染が疑われる特徴的な症状がみられるとき
自宅待機を命じることについて不当な動機・目的があるような特段の事情があれば、例外的に権利濫用扱いとなり、自宅待機命令が無効になる可能性もあります。
しかし、集団感染を避けるためという理由であればその心配は必要ないでしょう。
休業補償の義務について
会社が休業補償をしなくてよいケース
社員本人が実際に感染症に感染していれば、原則として債務者である社員の責めに帰すべき事由が認められます。
また会社側には
- 「債権者の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)
- 「使用者の責に帰すべき事由」(労働法26条)
がないため、賃金及び休業手当を支払う必要はありません。
休業補償が必要なケース
感染症疑いがある社員に対して自宅待機を命じた場合、
感染症に感染したことが明らかではない以上、会社が自主的判断で労務を提供できる社員を休業させたことになるので、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たり、休業手当を支払わなければならない
と考えるのが自然でしょう。
しかし、賃金全額を支払う必要はない場合が多いです。(自宅待機を命じたことにつき、会社に過失やこれと同視すべき事由があるとまではいえず、「債権者の責めに帰すべき事由」に該当しないため)
ただ、自宅待機の期間が、必要と定められている期間を超える場合は注意が必要です。
例えばインフルエンザについては、
命令違反の社員への対応
刑法上は、
- 建造物侵入罪(刑法(刑法130条前段)
- 不退去罪(同条後段)
これらに該当し得るため、警察に通報することは可能です。
さらに、企業施設内立入禁止の仮処分を申し立て、その強制執行をするということも理屈上は考えられます。
ただ、感染症が疑われることを理由に、社員に法的な措置までとるというのはあまり現実的とは言えず、社員を納得させて自宅待機へと導けるよう、
ようにするとよいでしょう。