事実無根のセクハラを申告する従業員への対応は?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
ある社員から私を含む複数の上司に対して、他の社員からセクハラを受けたという申告がありました。
しかし、話を聞いてみると信じられないような内容のものもあり、事実無根の可能性を疑ってしまいます。
この状況にどのように対応すべきでしょうか。
解説(基本的な考え方)
虚偽申告の可能性がある場合でも、事実調査を行うべきか
セクハラ申告があった場合、その内容を一部の上司のみで処理することは避けるべきです。
申告があれば、上司は速やかに担当部署にその旨を報告し、対応を委ねなければなりません。
もしセクハラ行為が事実と判明した場合、申告を無視してしまった場合には使用者の責任がより重くなる可能性があるからです。
したがって、このような事態を避けるためにも、慎重な対応が求められると考えてください。
事実調査において注意すべき点
セクシュアルハラスメント(セクハラ)行為は、しばしば密室や二人きりの場で行われがちであり、事実の認定は難しいことが多いです。
セクハラ行為を安易に認定するのは問題ですが、その不存在を断定するのも同様に慎重であるべきです。
一般的には申告が虚偽であると断定できるケースは、申告者が自白する場合を除きとても稀です。
そのため、
これには、メールやLINEのやりとり、電話履歴、日記、ビデオ録画、SNSへの投稿などが含まれます。
これらの証拠を基に、事実が認められるかどうかを判断します。
判断する際には、当事者の発言の具体性や一貫性、不合理な変遷の有無、客観的事実との矛盾点などを検討することが必要です。
裁判例
米国における強姦被害者の対処行動に関する研究を引用し、心理的麻痺状態に陥ったり、加害者を落ち着かせようとする被害者の存在を指摘し、そのような反応をもってセクハラ行為の存在を否定できない(
「横浜セクシュアル・ハラスメント事件・東京高判平9・11・20労判728号12頁」)
とした例もあります。
被害者がその場から逃げなかった、大声を上げなかったというだけでセクハラ行為の存在を否定することは危険です。
逆にセクハラ行為の存在に否定的な判断がされたケースもあります。
「A社(総合警備保障業)事件・神戸地尼崎支判平17・9・22労判906号25頁」
「社団法人K事件・神戸地判平17・9・28労判915号170頁」
などのケースでは、事実の歪曲を認定、存否が不明と判断、不法行為に該当しないとした判断がなされています。
外部への依頼
このようにセクハラ行為の有無の認定については、裁判でもそれぞれのケースによって慎重な判断がなされています。
当事者へのヒアリングや事実認定にあたって少しでも疑義がのこるような場合は、弁護士など外部の専門家に調査を依頼することが望ましいでしょう。
虚偽申告が判明した場合の対応方法
懲戒処分の検討
事実調査の結果、セクシュアルハラスメント(セクハラ)の申告が虚偽であることが明らかになった場合、適切な対処方法は何でしょうか。
まず、誤って加害者とされた人物に関して人事上の配転や懲戒処分を行うことは当然のことながら不適切です。
一方で虚偽の申告をした者に対しては、企業の秩序を乱し、不必要な事実調査による負担を会社に課したとして、懲戒処分の検討が必要になります。
例えば
この裁判例は、虚偽申告だけでなく協調性に欠ける行為も解雇の理由とされましたが、具体的な事案によってはこの例のように解雇も検討されるべきでしょう。
ただし繰り返しになりますが、虚偽申告と断定するのは「申告者本人の自白」や「虚偽を示す決定的な証拠がある場合」のみとするなど、慎重に判断をすることが大切です。
事情聴取とその後の対応
虚偽申告が行われたこと自体が、誤って加害者とされた人物と申告者の間に何らかの人間関係の問題があることを示唆しています。
そのため、このまま両者を同じ職場で働かせるのは何らかのトラブルを繰り返す可能性を残すこととなります。
これを踏まえて、