通勤途中の自家用車での交通事故:会社の責任と保険の重要性
最終更新日:2024.10.24
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通勤途中に従業員が自家用車で人身事故。会社に責任はある?
通勤途中、会社の従業員が自家用車で、人身事故を起こしました。
その従業員は任意保険に加入していませんでした。
被害者が、会社に対して損害賠償請求してきましたが、会社に責任はあるのでしょうか。
許可を得た車通勤は、会社の事業の執行に関連しているとは言い難い
民法715条にある使用者責任には、被用者が、使用者の「事業の執行について」(業務執行性)第三者に損害を与えた場合、使用者がその損害を賠償する責任を負うというものがあります。
会社に対する責任の認定の可否としては、会社の指示があったかどうか、業務への使用していたことにより認めた判例(最三小半昭和39・2・4民集18)、また否認の場合は会社がマイカー通勤を禁止していたこと、また所属長の許可がいるにもかかわらず、それを行っていなかったこと(最一小判昭和52・9・22民集31)場合が挙げられます。
賛否は分かれますが、許可を得て純粋に通勤にのみ使用していた場合は、使用者責任等は問われない可能性が高くなります。
ただし、自家用車通勤手当を支給していた事案では会社の責任を肯定する判例も
ただし、判例によっては、自家用車通勤に対する手当を支給していた事案について、比較的ゆるやかに業務遂行性を認定し、使用者責任を肯定しているものもあるので、注意が必要です。
(福岡地飯塚支判平成10・8・5判タ1015号207頁「通勤を本来の業務と区別する実質的な意義は乏しく、むしろ原則として業務の一部を構成するものと捉えるべきが相当である」)
そもそも、仮に許可を与えているのであれば、任意保険に加入していないことそのものが問題であり、許可を出した以上、会社が責任を持つというように解釈されても反訴はできない可能性が高くなります。
自家用車での通勤規定を整備しましょう
自家用車での通勤が必要な場合には、下記条件を内容とした、自家用車での通勤規程を整備するとよいでしょう。
1.会社の事前許可・許可基準の策定
2.業務には使用しない旨の誓約書の提出
3.必要かつ有効な任意保険(保障指定)への加入
誓約書の内容としては、万が一の事故については会社への責任の求償の回避、安全配慮の心得、万が一、それが守られない場合の懲罰・損害賠償等を定めなど、厳格なものである必要があります。
また、業務への転用の禁止(厳格な)、過剰なマイカー手当支給基準(推奨していると判断される基準)の見直し等も必要になってきます。
車通勤を認めるのであれば、交通安全意識の浸透が不可欠
判例を踏まえると、自家用車での通勤手当の支給も慎重にすべきです。
会社側でも、自家用車の業務利用を命令したり、容認・助長したりしないように常に留意する必要があります。
通勤に限らず、普段から車を多用している地域に対しては、特に通勤には注意する旨、可能であれば、安全講習会の実施等を検討した方が良いかと思います。
また、車通勤が当然ではなく、「仕方なく」認めているという意識をもって、運用する必要があります。
具体的には、渋滞による遅刻扱いの徹底、道路法規違反によるペナルティの厳格化、安全運転喚起等の措置を日常的に行うようにし、交通安全に対する意識を従業員全体に浸透させていくことが求められます。
人材マネジメント上のポイント
従業員の業務を日々、管理することが必要になります。
日報等による進捗の管理により、今どのくらいの作業・業務量があるかどうかを把握し、優先順位等も把握して、時間外の必要性等を従業員に一任するのではなく、管理者等も把握することができるような環境づくりも必要になってきます。
そのような業務把握を実現した次のステップとして、生産性向上に向けた取り組みや在宅勤務の導入・浸透等につなげていくことが望ましいと考えています。
いずれにしても、業務の量・内容の把握を第3者と共有することによる効果は非常に高く、特に管理者の動きが重要になってきます。
そのために、残業や深夜労働等を勝手に認めるのではなく、必要性等を踏まえて、判断していくことが必要になります。