通勤中の電車が急停車した際に、化粧をしていて負傷した場合、通勤災害になる?
最終更新日:2024.10.24
目次
通勤中の電車が急停車した際に、化粧をしていた女性社員が目を負傷した
我が社の女性社員が、通勤中、電車内で化粧をしていた際に、電車が急停車したことが原因で目を負傷してしまいました。
化粧による負傷であることから、状況を考慮すると自己責任の範囲内ではないかと考えていますが、こうしたケースでは、通勤災害と認定されるのでしようか。
通勤災害として認定される可能性はある
少なくとも通勤行為の中断・逸脱はないことから、通勤災害と認定される可能性はあります。
しかし個別の事情によっても判断は異ります。
●通勤災害とは
●通勤災害と認められた際には
・療養給付
・休業給付等労災保険による保険給付
の対象となる
ことが定められています。
●業務上の災害ではないため、これにかかる療養期間は
労基法19条
「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間」
には含まれず、解雇禁止の対象とはなりません。
通勤災害の認定要件
上記のとおり、通勤災害と認定されるためには、まず、災害が発生したのが「通勤」途上でなくてはいけません。
そして、
「通勤」とは、労働者が就業に関し、
①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所から他の就業の場所への移動
③①の往復に先行または後続する居住間の移動を、合理的な経路および方法により行うこと
をいい、業務の性質を有するものを除きます。
また、
とされています。
「通常通勤に内在する危険が現実化したもの」と認められるかどうか
通勤途上の災害であっても、法律上「通勤による」災害でなければ、通勤災害とは認められません。
そこで「通勤による」の意義が問題になります。
これについては、
と解するのが相当とされています。
つまり、通勤災害と認められるためには、
と認められる必要があります。
たとえば、
・通勤途中に自動車に轢かれた場合、電車が急停車したため、転倒して受傷した場合、駅の階段から転落した場合
・歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合
・転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合等
は、いずれも通常通勤に内在する危険が現実化したものとして相当因果関係が認められ、通勤災害と認められるとされています。
通勤災害として認められないケース
以下のケースが考えられます。
・被災者の故意によって生じた災害の場合
・通勤の途中で喧嘩をして負傷した場合
・通勤の途中に第三者の計画的犯罪によって死亡した場合等
は、通勤をしていることが原因となって災害が発生したものではなく、通常通勤に内在する危険が現実化したものとはいえないので、相当する因果関係は認められず、原則として通勤災害とは認められません。
通勤電車内での化粧を、みだしなみとして必要なマナーと考えるかどうか
電車内での化粧はどのように評価されるのか
質問では通勤途上の電車の中で化粧をし、電車が急停車した結果負傷することが「通常通勤に内在する危険が現実化したもの」として相当な因果関係が認められるかどうかという点が問題になります。
近年、社会に出て勤務する女性にとっては、化粧は最低限のみだしなみとして、日常生活上必要不可欠なマナーと考えられる見方も一般的といえます。
賛否はありますが、通勤電車の中で勤務のため化粧をすることをどのようにとらえるかも問題です。
近年、電車内での化粧を見かける機会は増えてはきており、社会的価値観も流動性をもっています。
それらが一般的なものとまでいえるかどうかは、見解が分かれることも確かです。
現時点で勤電車内での化粧が一般的な行為かどうかの判断は難しい
こうした事案に対する行政あるいは司法の判断が未だ出されていない点も踏まえると、現時点でどちらが一般的か、一方の前提に立って議論することは難しいと言えます。
もし、通勤電車内での化粧が近年、一般的な行為であると判断されることになれば(最終的な判断はその他個別事情にもよります)、
①通動電車が予想外に運行中急停車をし、車両の大きな揺れにより転倒、負傷するケースは、通常でも十分考えられる。
②化粧をすること自体、通勤行為の中断・逸脱には当たらないこと等から、質間の、「電車内の化粧による負傷」は、「通常通勤に内在する危険が現実化したもの」として相当因果関係が肯定され、通勤災害と認定される可能性がある
といえます。
労働基準監督署等に相談のうえ、対応を検討する
通勤途上での化粧中の負傷が通勤災害として認められるか否かについて、現時点では行政あるいは司法の判断は出ていませんので、質間の事情を整理し、労働基準監督署等に相談のうえ、対応を検討する必要があるでしよう。
会社としては、社員に対し、電車内での化粧での事故・負傷の可能性について説明し、電車の中での化粧は危険である点、事前に注意を促すことは必要です。
また会社は、「自己責任」として無関心になるのではなく、今後はこのような間題が生じないよう、また、社会人としてのマナーについて社員の意識を高めるよう、積極的に働きかけることが必要かつ重要になるといえます。