HR-Tech -人事データの活用(2)-
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は、HR-Tech―人事データの活用―についての可能性・手法について述べました。
今回は、実際に分析事例を説明すると同時に、ビックデータ活用における留意点について解説していきます。
分析事例
退職者動向という視点で分析する事例を説明します。
前回触れましたが、企業の人事データの例、取組姿勢と行動特性を測定する弊社HR-PROGのデータ例を使い、それらのデータから退職に影響されるデータを分析します。
その結果、退職者の年齢構成と取り組み姿勢の関連が現れました。
縦軸を仕事面における取り組み姿勢、横軸を年齢の構成とした時、現状の行動特性とあるべき行動特性の乖離が見られました。
それぞれの関連性について、説明します。
① 取り組み姿勢(仕事面)と行動特性の乖離度合いの関連は若干ある。
② 年齢と取り組み姿勢(仕事面)の関連性はあまりない。
③ 行動特性がある程度合致している人が離職する傾向が強い。
④ 行動特性が全く合致していない人は離職する傾向でない。
分析内容は記載の通りですが、そのことから「なぜ、退職に至ったのか」「どのような人材が退職する傾向にあるのか」を分析することができます。
以上のことから、一つの仮説として、仕事に対する取組姿勢が、平均的なミドル層の人材が離職する傾向になります。
次に、その仮説の原因として、評価における関係を分析します。
縦軸を取り組み姿勢、横軸を評価の関連性とます。
通常、評価はS・A・B+・B・B-・C・Dの7段階で行われていますが、今回は評語をそのまま使用するのではなく、評語に至るまでの点数(150点~70点)をグラフ化しました。
その結果
⑤ 評価における中央化現象がみられる。
⑥ 行動特性の合致度合いと評価における関係性が一定程度ある。
という結果になっています。
一つの仮説として、取組姿勢が高い人材もそうでない人材も同じような評価になっているということが言えます。
評価の中央化現象が退職事由の一つになっていると思われます。
最後に、評価の中央化が及ぼす影響を分析するため、ミドル層の取り組み姿勢に関して、詳細に分析を行います。
取り組み姿勢そのものに関するイメージは下記の通りになります。
上記のことから、同一評価傾向にあり、その取り組み姿勢に対して十分なアプローチができていない。
つまり、離職の原因とは、以下のように言えます。
(1) 活躍しても評価に反映されていない(中央化現象)
(2) 役職・業務内容を求める志向が強い
(3) (2)の結果として報酬を求める志向が強い
(4) 役職・業務内容は求めるが会社に対する愛着心・忠誠心は低い
あくまでも一例ですが、様々なデータを用いて、人材マネジメントの動向を分析していくことにより、今まではある程度、「勘」「経験則」に頼っており、一定の成果をあげることが出来たかもしれませんが、近年の価値観の多様化により、科学的に分析を行う必要性が増してくると思われます。
データに基づ具体的アプローチ
では、これらのアプローチを基にどのような施策を講ずるかを検討します。
まず、
(1) 活躍しても評価に反映されていない(中央化現象)
については、評価フローを見直すこととしました。現状では、二次評価以降は、評価視点(目標管理・行動評価等)ごとではなく、総合的な評語のみで評価をしていましたが、二次評価者も評価視点ごと、さらには評価項目ごとの点数を評価するようにしました。
それに伴い、評価者研修の範囲を二次評価者まで拡大しました。
絶対評価を徹底し、中央化現象を避けるようにしました。
次に
(2) 役職・業務内容を求める志向が強い
(3) (2)の結果として報酬を求める志向が強い
の2点については、これまで等級と役職の関係が不明確であったのを体系立ったものにし、役職をライン職に限定しました。その体系ごとに報酬体系を見直し、ライン職(一部の専門職)に対しては報酬水準を高く設定しました。
業務においても、ある程度の権限委譲を行い、現場に任せるように進めました。
(4) 役職・業務内容は求めるが会社に対する愛着心・忠誠心は低い
については、特に策を講じませんでしたが、ライン職を中心に職場環境を良くなるような施策を講じました。
ビッグデータ活用の留意点
データ収集については前回触れましたので、今回はそのデータ活用について触れます。
データにおいては、多変量解析を中心に実施していくことになります。
データ解析の流れは下記のようになります。
単変量解析 → 変数変換・データクリーニング・データ加工 など
二変量解析 → 異常値の除去・外れ値の処理・基本統計量算出・分布状況・時系列分析 など
多変量解析 → 外れ値の処理・分布状況確認、相関関係・階層別、因果関係分析 など
分析に当たっては、やはり母集団は多い方が、仮説の信ぴょう性が高まります。
しかし、巨大企業ならともかく、中堅・中小企業においては、データ数がなかなか揃わないことが多いかと思います。
その場合には、下記の2つの方法が考えられます。
(1)細かいデータまで収集し、仮説・分析を増やす
(2)他社データを交えて、仮説・分析を行う。
(1)の場合には、どのようなデータが必要なのか、先ほどの例で考えると、報酬総額ではなく昇給・昇格率かもしれない、評価されていないことではなく、「評価する人のスキルが足りない」かもしれないなど、データの因果関係の視点を出来るだけ増やして対応することが求められます。
また、(2)においては、自社のみでは実施は不可能で、コンサルティング会社・シンクタンクなど外部の力が不可欠になります。
いずれにせよ、設計の段階からビックデータの範囲をどのようにするのかを考えていく必要があります。
まとめ
今回、退職者の動向分析という事例で、データの解析方法のイメージ、及び活用方法等を説明しましたが、前回述べた6つのCase以外においても、適切に原因を分析し、それに似合った解決策の立案を行っていくことにより、リテンションやタレントマネジメント、さらには企業における人材の活性化につながるのではないでしょうか。
次回は、HR-TECHの残りの論点、給与計算簡素化や業務改善によって、人の役割は何かということについて触れていきたいと思います。