【社労士が解説】担当者が突然退職…給与計算の引き継ぎはどうする?
最終更新日:2024.10.24
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社労士:
森田 征
給与計算担当者の退職時の引継ぎでは、業務の標準化と可視化を行って属人化を防ぐことが大切です。例外的なケースなど「その人しか知らない」情報を無くし、詳細なマニュアルを作成しましょう。
また、急を要する場合であれば、「給与計算の外注(アウトソーシング)」も検討すると良いでしょう。
目次
給与計算を内製化するケースでよくいただくのが、「担当者が急に退職する場合、どうすればいいのか?」というご相談。
結論、給与計算は業務の標準化と可視化を行って属人化を防ぐことが大切ですが、突然の退職によって、そうは言っていられないケースもあるかと思います。
本記事では、給与計算担当者が突然退職してしまうリスクや、もし起こった際の対処法について、詳しく解説していきます。
給与計算担当者の退職で起こる3つのリスクとは?
給与計算担当者が突然退職すると、その影響は会社全体に波及しかねません。一見、単純な業務の引き継ぎ問題のように思えるかもしれませんが、実はさまざまなリスクが潜んでいるのです。
新担当の不慣れさから、給与計算の「遅延や誤り」が発生する
新しい担当者が業務に不慣れな場合、給与計算の遅延や誤りが発生する可能性が高まります。これは単に従業員の信頼を損なうだけでなく、労働基準法違反にもつながりかねない深刻な問題です。
また、退職者が持ち去った情報や、引き継ぎ不足による知識の欠如が、長期的な業務の停滞を招くリスクも無視できません。
文章に残っていない「ノウハウの引継ぎ」がされない
給与計算システムの操作方法や、会社独自の手当計算ルールなど、個人に依存した知識が適切に引き継がれないリスクは予想以上に大きいものです。
特に、複雑な計算ロジックや多様な例外ケースへの対応は、文書化されていないことも多く、引き継ぎミスの温床となりやすいでしょう。
さらに、システムのアクセス権限の管理ミスによる情報漏洩や、急な担当者不在によるシステムトラブル対応の遅れも懸念されます。
退職者による「情報漏洩」の可能性も
給与データは極めて機密性の高い個人情報です。退職者による意図的または偶発的な情報漏洩のリスクは決して軽視できません。
特に、クラウド型の給与計算システムを使用している場合、アクセス権限の適切な管理が不可欠となります。また、退職者が持ち出した情報が競合他社に流出するリスクも考慮する必要があるでしょう。
これらのリスクは、単なる業務の混乱にとどまらず、会社の信用失墜や法的問題にまで発展する可能性があります。給与計算担当者の退職は、想像以上に大きな影響を会社にもたらす可能性があるのです。
自社で実践!退職リスクを減らす効果的な引き継ぎ方法
給与計算担当者の退職は、企業にとって無視できないリスクとなります。しかし、効果的な引き継ぎ方法を実践すれば、そのリスクを大幅に軽減できるのです。ここでは、退職リスクを最小限に抑えるための具体的な引き継ぎ方法をご紹介します。
属人化を防ぐ!給与計算業務の標準化4ステップ
給与計算業務の属人化を防ぐことが、退職リスク軽減の鍵となります。以下の方法を取り入れてみましょう。
- 業務の可視化: 給与計算の全プロセスをフローチャートなどで見える化し、誰でも全体像を把握できるようにします。
- マニュアルの整備: 詳細な業務マニュアルを作成し、定期的に更新します。例外的なケースや特殊な計算方法も漏らさず記載することがポイントです。
- クロストレーニング: 複数の担当者で業務を共有し、お互いにバックアップできる体制を作ります。
- 定期的な情報共有: 月次や週次で給与計算に関する情報共有ミーティングを開き、知識の偏りを防ぎます。
スムーズな引継ぎのために!具体的な手順とツール活用法
効果的な引き継ぎを行うには、計画的なアプローチが欠かせません。以下の手順とツールを活用してみてください。
- 引き継ぎスケジュールの作成: 退職日から逆算して、詳細な引き継ぎスケジュールを組みます。通常業務と並行して進めるため、余裕を持った計画が大切です。
- 業務の棚卸し: 担当している全ての業務を洗い出し、優先順位をつけて整理します。
- 引き継ぎ資料の作成: 以下の内容を含む包括的な引き継ぎ資料を準備します。
- 業務の目的と概要
- 詳細な作業手順
- 過去のトラブル事例と対応策
- 関係者の連絡先リスト
- 実地トレーニング: 後任者と共に実際の業務を行い、理解度を確認します。
- 情報共有ツールの活用: クラウドベースの文書管理システムやナレッジベースを使い、引き継ぎ資料を常に最新の状態に保ちます。
これらの方法を実践することで、給与計算業務の継続性を確保し、退職リスクを大幅に軽減できるはずです。さらに、これらの取り組みは業務効率の向上にもつながり、長期的には企業全体の生産性向上に寄与するでしょう。
アウトソーシングで退職リスクを軽減!メリットと導入タイミング
給与計算業務のリスクを軽減する方法として、アウトソーシングが注目を集めています。ここでは、アウトソーシングのメリット・デメリットと、導入を検討すべきタイミングについて見ていきましょう。
外注をすべきか?メリット・デメリットを比較検討
アウトソーシングには以下のようなメリットがあります。
- 専門知識の活用: 法改正や制度変更に素早く対応できる専門家のサポートを受けられます。
- コスト削減: 人件費や給与計算システムの維持費を抑えられる可能性があります。
- 業務効率化: 社内リソースをコア業務に集中させることができます。
- 属人化リスクの回避: 担当者の退職や休職に左右されにくくなります。
一方で、以下のようなデメリットも考慮に入れる必要があります。
- 情報漏洩リスク: 従業員の個人情報や給与データを外部に委託するリスクがあります。
- ノウハウの蓄積不足: 自社内での給与計算に関する知識やスキルが蓄積されにくくなります。
- 柔軟性の低下: 急な制度変更や特殊なケースへの対応が遅れる可能性があります。
アウトソーシングのメリット・デメリットについては下記記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
どのタイミングで外部委託を検討すべきか?
アウトソーシングの導入を検討すべきタイミングには、以下のような状況が考えられます。
- 業務の属人化が進んでいる: 特定の担当者に依存しており、リスクが高まっている場合。
- 法改正への対応が困難: 頻繁な制度変更に自社で対応するのが難しくなってきた場合。
- コスト削減が必要: 給与計算業務にかかるコストを見直したい場合。
- 業務効率化が急務: 人事部門のリソースをより戦略的な業務に振り向けたい場合。
- 拡大・縮小の際: 企業規模の急激な変化に伴い、内部での対応が難しくなった場合。
アウトソーシングの導入を検討する際は、自社の状況や課題をしっかり分析し、メリット・デメリットを慎重に比較検討することが大切です。
また、信頼できるアウトソーシング先の選定も成功の鍵となります。給与計算業務のアウトソーシングは、リスク軽減の有効な手段の一つですが、全ての企業に適しているわけではありません。自社の特性や将来的な展望を踏まえ、最適な選択をすることが求められるでしょう。
外注先の選び方については、下記記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
最適な給与計算体制を構築するには?
給与計算業務のリスク管理では、自社での対策と外部リソースの活用をうまく組み合わせることが、最適な解決策となる場合があります。ここでは、自社でできるリスク管理と、外部リソースの有効活用について詳しく見ていきましょう。
「自社」でできる!給与計算リスク管理5つの鉄則
自社内でリスクを軽減するには、以下のような対策が効果的です。
- 業務の標準化: 給与計算プロセスを明確に文書化し、誰でも実行できるよう標準化します。
- クロストレーニング: 複数の従業員に給与計算スキルを習得させ、お互いにバックアップできる体制を作ります。
- 定期的な内部監査: 給与計算業務の正確性や効率性を定期的にチェックし、問題点を早めに発見・改善します。
- セキュリティ対策の強化: データ管理のセキュリティを強化し、情報漏洩リスクを最小限に抑えます。
- 継続的な教育: 法改正や新しい給与計算技術に関する社内研修を定期的に行います。
「外部リソース」を賢く活用する
外部リソースを活用することで、自社の取り組みを補完し、さらなるリスク軽減が可能になります。
- 専門家のコンサルティング: 給与計算の専門家に定期的なアドバイスを求め、最新のトレンドや法改正に対応します。
- クラウド型給与計算システムの導入: 常に最新の状態に保たれるクラウドシステムを使うことで、法改正への対応や業務効率化を図ります。
- 一部業務のアウトソーシング: 複雑な計算や年末調整など、特定の業務のみを外部委託し、リスクと効率のバランスを取ります。
- BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用: 繁忙期や人員不足時に、一時的に外部リソースを活用し、業務の継続性を確保します。
- セキュリティ監査の外部委託: 第三者の目線でセキュリティ対策の評価を受け、潜在的なリスクを洗い出します。
「自社×外部リソース」で、自社の特性に合わせたリスク対策を検討する
自社でのリスク管理と外部リソースの活用は、お互いに補完し合う関係にあります。例えば、クラウド型給与計算システムを導入しつつ、社内でのクロストレーニングを実施するなど、両者を組み合わせることで、より強固なリスク管理体制を構築できるでしょう。
大切なのは、自社の状況や課題に応じて、最適なバランスを見出すことです。定期的に現状を評価し、必要に応じて対策を見直すことで、常に効果的なリスク管理を維持することができます。
給与計算業務のリスク管理は、一朝一夕には完成しません。しかし、自社の努力と外部リソースの賢明な活用を組み合わせることで、より安全で効率的な給与計算業務の実現に近づくことができるのです。
まとめ
給与計算担当者の退職は、企業にとって看過できないリスクとなります。業務の遅延、ミス、情報漏洩など、様々な問題が起こり得ます。しかし、適切な対策を講じれば、これらのリスクを軽減できるのです。業務の標準化、クロストレーニング、アウトソーシングの活用など、自社の状況に合わせた最適な方法を選ぶことが大切です。
さかえ経営では、東京エリアの企業(200〜1,000名規模)における給与計算アウトソーシングの実績をもとに、給与計算におけるお困りごとをサポートいたします。
特に、給与計算処理についてお困りの人事・労務の方は、まずはお気軽にご相談ください。
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