人事制度に基づく降格(降級)の適切な進め方:企業が知るべき法的視点と対応策
最終更新日:2024.10.24
目次
マネジメント能力不足の管理職を降格させたい
当社は役割資格制度を導入しています。今回、ベテランの管理者に対して、マネジメント能力がないと判断し、降格させたいと考えています。
しかし、不利益変更を恐れて対応できないかもしれないとも考えております。実施するためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
降格には人事権の行使と、懲戒処分の2種類がある
降格には、大きく分けて2種類あります。
があります。懲戒処分としての降格は、就業規則等における懲戒規定に該当した場合に行われます。
今回は人事権の行使としての降格について触れていきます。人事管理上の職位や役職を引き下げることが「降格」に該当します。
その基準等はそれぞれの企業や事案によって異なりますが、判例では、
(平成2・4・27東京地裁、エクイタブル生命保険事件)などとされているように、役職の低下を含む使用者(企業)の人事権の行使に広い裁量を認め、就業規則等の根拠規定がなくても役職を引き下げることは可能とされています。
また、それに伴う賃金格付上の低下をする際に、その評価のため人事考課や査定が行われますが、
。賃金の増減を決定づける人事考課や成績評価制度は、使用者が主観や恣意によらずに労働者の能力・成果を適正・公正に評価できる制度設計や運用が重要になります。
役割を果たせなければポジションや給与が変わる
本来の役割が果たせないまま、従前のポジションに残るということは、他の従業員のモチベーションの低下を招きます。
結果を出しても、
になります。日本の人事労務の慣例として、労働条件を下げるのは、法的な根拠は勿論、心情的にも難しいと思う傾向にあります。
しかし、その考えも、年功的な賃金体系であるため、一度下がると中々上がらないという意識もあるかと思います。本来すべき行動・成果を明確にし、それが実現できれば、すぐに「元に戻る」ということを制度・運用として知らしめることにより、降格、それに伴う減給の抵抗も少しは和らぐのではないかと考えています。
大切なのは、
ことだと考えています。
公正・公平な評価制度を構築する
評価制度を適用する際は、その効果基準を明確にして実際の評価をする評価者(管理者等)を訓練し、公正・公平な考課を実施する運用を行うということが重要です。
個々の能力の発揮度合を給与にする反映させるなど、成果主義的システムを構築する場合、
個々の労働者の職務分掌が明確か、
個人の成果を何によって測るのか、
「成果」をどのようなタイムスパンで評価するのか、
所属部署や会社の業績を反映させるのか
否かなども問題になります。
営業所の業績不振を理由として営業所長を営業社員へ降格したエクイタブル生命保険事件(平成2・4・27東京地裁)では、
制度設計上のポイントしては、これまで多くの企業で導入されてきた、人事「考課」であると、抽象的な概念が入り、解釈によっては好き嫌いの要素が入ってきます。
抽象的な内容に「後付け」で態度などという主観に基づく内容で決定するのではなく、実際の行動・結果等で評価するような仕組みの構築が必要になります。
その仕組みの構築においては、潜在的なものではなく、行動や結果といった「目に見える」項目を定義することや、数値なのか、行動なのか、定義された内容について、レベル差はないか、解釈の疑義がないかなどをチェックする仕組み・工程も必要になります。
新たな降格制度や賃金テーブルを導入する際は公平性が大切
一方で、人事評価に関する光洋精工事事件(平成9・11・25大阪高裁判決)では、
との判例があり、逆に言えば、これらのいずれかに該当する場合には、人事評価が違法となることを示唆しています。
裁判例からあるように、新たな降格制度、それに伴う賃金テーブルを導入する際は制度として透明で公正な制度であることが前提になります。
また、その運用や実施にあたっては、違法性がなく、公平、公正に評価することが求められます。
実際に評価をする人においても、
になります。
人材マネジメント上のポイント
評価制度のルールの構築等が重要になりますが、意識面の改善も図ることが必要だと思われます。アプローチは様々ですが、一例として、
が挙げられます。目標管理がその手段の一つですが、本来、会社全体目標からブレイクダウンされた、各ユニットごとの目標を達成するために、各人ごとにミッション等が割り振られ、各人ごとに「何をどのようにするのか」、進捗が未達な場合は、「それをどのように改善するか」ということを、上司と部下でその都度、考え、改善していくことが本来の流れです。
その仕組みを活用して、組織のミッションを構成員すべてにタスク分けを行い、
になります。
また、行動については、頑張ったなどという、目に見えないものを評価するのではなく、具体的な行動について評価していく必要があります。
いずれにせよ、
になります。その際、勿論、従事しているジョブ、そして、それに紐付くグレードに応じて、そのタスクが割り振られるべきだと思われます。