AI時代の人材活用:新たなアプローチとその必要性
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回触れたように、今後、人口知能が浸透するなか、定型的なものはもちろん、判断を要する仕事についても、人の力を必要としなくなるにあたって、人の業務が軽減され、それに合わせて、企業の人材マネジメントは変化していく必要があります。
これからの人材マネジメント
それでは、どのようなマネジメントが必要なのでしょうか。
一般的な組織の形態(マネジェリアルグリッド)ごとに考察していきます。
縦軸「人間への影響」、横軸「生産性への関心」で測定していきます。
「人間への影響」とは、職場環境の良し悪し、人間関係など、職場風土の状態を表し、「生産性への関心」とは、業績へのこだわり、会社の発展に対する意識など、仕事に対する考え方や姿勢などを指します。
関係性としては、いわゆる、雰囲気がいい職場であったとしても、それだけでは、単に”仲良し集団“になってしまい、生産性への関心とは別の問題です。
一方で、生産性への関心を強制的に持たせることも可能だと考えられています。
その考え方が、成果主義が成長した背景でもあります。
つまり、人間への影響と、生産性への関心双方のバランスがとれている状態が望ましいとされています。
今後、業務がシフトしていくなかで、この2つのバランスが重要になると考えています。
つまり、職場環境が良好でないと、自発的に前向きな発想を持つことが難しく、また、生産性の関心も高くなければ、改善活動等変化についていくことができないと考えています。
一方で、業務がシフトするにあたって、「業務のブラックボックス化」が懸念されます。
業務のブラックボックス化の原因としては、「その業務から外れることを懸念している」「社内の居場所がなくなる」「その結果、リストラされる」などの理由かと思われます。
それら人間への影響と生産性への関心の2つのバランスを考えて、そのような考えになるのを避けていかなければなりません。
ではバランスがとれている理想の姿とはどのような姿でしょうか?マネジェリアルグリッドを用いて、説明します。
理想としては、チームマネジメントに行くことです。それぞれの具体的なアプローチとは、
- 会社・業務に振り向かせる
→ 会社や仕事が好きになるように仕掛ける。当事者意識を醸成し、業務に対する執着心をもたせる。
- 良好な職場環境を構築する
→ お互いが助け合い、協力し合える環境を構築する。過干渉でもなく、無機質でもない、就労に対して、ほどよい環境をつくる
のようなことだと思われます。
理想とする人材マネジメントとそのアプローチ
もう少し具体的に検討します。
一般的な企業における人工知能におけるマネジメントの容易性をそれぞれ要素別に分析します。
現在においても、人事経理業務やその他の入力業務等において、一部の企業においては人工知能を導入していると思われます。
しかし、その中に、人材のシフトという議論はありません。
理由としては、公表していないか、そもそもそのような問題が発生しないかのどちらかです。
公表していないことは別として、そのような問題が発生しないということはどのようなことでしょうか。
日本の企業は、新卒採用(第2新卒等、若年者含む)においては、(特にキャリア的採用、将来の幹部候補)基本的には人に業務をつけることが一般的であるのに対して、
中途採用においては比較的、ポジションや業務内容に応じて採用する傾向にあります。
そのため、新卒採用が多い企業は、人に業務がついている状態である場合が多く、中途採用が多い企業は、業務が人についてる場合が多いという傾向になります。
新卒採用が多い場合、人に業務がついているため、1つの業務がなくなったとしても、次の業務がある以上はそちらの業務にシフトすることが容易に実現できます。
人に業務がついているポイントとして、下記の3つを挙げます。
① ジョブローテーションの頻度
定期的にジョブローテーションを行っている企業もしくは人については、
その時に合わせて、業務や役割がシフトされるので問題ない。
② 職種別採用
職種別に採用する傾向がある企業もしくは人については、その職種・業務がなくなった時に、シフトしにくいので、問題が発生する。
③ 業務の固定化
業務やそこでの役割がなかなか変わらない場合だと、問題が発生する。
①との違いは、職種が根本的に変わるのか、職種は同じであるが、その中での業務が変わるかである。
逆に、この上記3つを意識すると、人の業務・役割のシフトが容易になるため、人工知能を導入した後の対応が容易になります。
これらのことは、制度構築をするとすぐに問題が解決するわけではないので、事前の準備が必要になると思います。
以上のことから、筆者は、そのバランスを保つための人材マネジメントというのは、下記の4つのように考えています。
(1) 既存の業務に捉われることもないキャリアプランの構築
(2) 人・モノ・カネ・情報のマネジメント業務の充実・役割の定義
(3) 会社・業務の面白さの提供
(4) 情報が共有されるような良質な職場環境の構築
分類すると
〇制度構築 ・・・ (1)(2)
〇風土構築 ・・・ (3)(4)
になります。
次に、制度構築について、触れてきます。
対象となる制度は、人事制度の中の特に等級制度、そして、それに伴うキャリアパスの構築です。
歴史のある大企業などは、配置などにより対応することが可能ですが、ほとんど多くの企業については、そのような対応は難しいと考えられます。
ローテーションや異動の考え方がない企業にとっては一度考え方を整理することが必要ではないでしょうか。
人材マネジメントへの展開
筆者の考えるキャリアパスとは、企画的な業務と市場価値の2軸考えています。
ここに到達するために、何をする必要があるのか、を考えるきっかけになります。
もちろん最初は教育・習得も兼ねて定型業務に従事することも必要ですが、その取り組みにおいても、ただ、漫然と実施するのと、将来の企画・専門性を意識して行うのとは全然、違います。
その際に最も大切なのが、会社としての”あるべき人材像は“何かということを明確に定義するということになります。
この場合は、「業務において付加価値をつける」ということであり、そのための登用であり、教育だと考えています。
登用においては、それぞれの役割・業務を定義することが重要だと思います。
役割は等級別でも構いませんし、役職・呼称ベースでも構いません。
それでは役割とはなんでしょうか?
ここでは、役割は下記のように考えています。
- 基準:役割(期待役割:ロール)
- 対象者が果たすべき役割を定義し、区分する制度(主に影響度-責任・権限の範囲-の大きさに応じて役割を定義、その相違により等級を区分)
- 担う役割の内容が大きく変化した場合に、等級・報酬が変化する仕組み
- 同じ役割の中で、役割を果たせた程度に応じて、昇降給がある
業務と役割の関係性をイメージすると、縦軸はいわゆる役割で、横軸が業務と考えます。
役割は先述の通りで、業務においても、メンテナンス等のことも考えて、従前の職務給のようにあまり細かくし過ぎず、バリューチェーンのレベル、いわゆる業務プロセスのような少し粗いメッシュのほうがよいと考えています。
次に、教育制度について触れます。
先のあるべき人材像が明確になると、そうなるためにはあるべき人材像との整合性を保つ必要があります。
教育プランの構築は、多くの企業が実施しているような形態で問題ありません。
むしろポイントは、あるべき人材像を明確にして、それまでのキャリアパスを明確にしていくことが非常に重要だと考えています。
最後に、風土構築について触れてきます。
会社・業務における取り組み姿勢の向上と、職場環境の向上を挙げましたが、以前に触れたように、世代やそれまでの境遇等によって、価値観が大きく異なります。
企業の人材マネジメントとして、全社的に実施していく必要があります。
しかし、必ずしも、全員に理解してもらい、全員がそのような方向性に向かない場合が多々あります。
だからといって、現状の姿のみで判断するのは禁物です。
まずは、会社・業務における取り組み姿勢の向上と、職場環境の向上するように何をすべきか、そうすることで変わる人と変わらない人の区分を明確にすることだと考えています。
今後の人材マネジメントの方向性
今回は、マネジリアルグリッドを用いて、組織の方向性から人材マネジメントの施策の方向性について触れました。
もちろん、組織ごとの現状に応じて対応は異なってきます。
しかし、多くの企業で、「あるべき人材像」が具現化されていない現状があります。
昨今、「忖度」という言葉が話題になっていますが、大なり小なりこれまでの日本企業においては、曖昧・非公開の文化が根強く残っています。
その文化が必要なこともありますが、人材の方向性について、不明確だと、従業員からすると「何をどのようにしたらよいか」分からないまま業務を進めることになります。
そのような状態から、会社もしくは上司とコミュニケーションエラーが生じると、モチベーションが下がり、離職という結果を招く恐れがあります。
確かに、今後の人材を取り巻く環境は厳しいと考えます。
それに伴い人材マネジメントの要求レベルも上がってきます。
場合によっては、隠したい・曖昧にしておきたいと考えるもの当然です。
しかし、今後の人材マネジメントは、労働人口の低下も伴い、激変していきます。
それに向けて、求めるものを定義にし、方向性が明確にすることにより、すべての人材に対して、的確なアプローチができ、人材を活かすことが出来ると考えています。
次回は、いよいよ、HR-Tech―人事データの活用―について触れていきます。