在宅勤務時代の新しい労務管理:企業が知っておくべきこと
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
新型コロナウイルス感染症の問題発生を機会に在宅勤務(リモートワーク)を増やしましたが、労務管理をどのようにすればよいのか悩んでいます。
在宅勤務での労働時間や労災の問題はどのように処理すべきでしょうか。
解説(基本的な考え方)
「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)を受け、平成30年2月22日に「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導人及び実施のためのガイドライン」が策定されました。
ここでは、雇用型リモートワーク、あるいはテレワークについて、労働時間管理の仕方などが整理されています。
ガイドライン
「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」では、雇用型リモートワークにつき、長時間労働を招かないように労働時間の管理の仕方などが整理され、労働基準関係法令(労基法、最賃法、安衛法、労災法等)が適用されること等が記されています。
トラブル回避できない場合のリスク
リモートワークに際して生じやすい事象
リモートワークでの労働時間の把握において、間題になるのは次のようなケースです。
いわゆる「中抜け時間」
在宅勤務等では、労働者が業務から離れる時間が生じやすいといえます(いわゆる中抜け時間)。
中抜け時間については使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合、休憩時間や時間単位の年次有給体暇として取り扱うことが可能です。
通勤時間や出張旅行中の移動時間中のリモートワーク
リモートワークの性質上、通勤時間や出張旅行中の移動時間に情報通信機器を用いて業務を行うことは可能です。
使用者の明示または黙示の指揮命令下で行われるものは、労働時間とみなされます。
勤務時間の一部でリモートワークを行う際の移動時間等
勤務時間の一部でリモートワークを行う際の就業場所間の移動時間については、使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否かにより、個別具体的に労働時間に該当するかは判断されます。
使用者が移動することを労働者に命ずることなく、労働者自らの都合により単に就業場所間を移動し、その自由利用が保障されている時間は休憩時間として取り扱うことは認められています。
使用者が労働者に対し、業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていないケースの移動時間は、労働時間とみなされます。
規程・マニュアル作成上のポイント
フレックスタイム制
リモートワークにおいても、フレックスタイム制を活用することができます。
事業場外みなし労働時間制
使用者の具体的な指揮監督が及ばな時や、労働時間を算定することが困難な時は、事業場外みなし労働時間制が適用されることになります。
裁量労働制
裁量労働制の要件を満たし、制度の対象となる労働者についても、テレワークを活用することができます。
休憩時間の取扱い
労使協定により、休憩時間の一斉付与の原則は、適用除外可能とされています。
時間外・休日労働の時間管理
実労働時間やみなし労働時間が法定労働時間を超える際には、36協定の締結、届出および割増賃金の支払いが必要となります。
労働時間の状況の適正な把握に努め、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すことも検討しましょう。
運用上のポイント
通常の労働時間制度における留意点
労働時間の適正な把握
通常の労働時間制度に基づきリモートワークを行う場合、使用者は原則として、労働時間を適正に把握する責務を有します。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)を参考に、適正に労働時間の管理を行う必要があります。
同ガイドラインにおいては、労働時間を記録する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によること等があります。
その他、メール・電話による報告、勤怠管理ソフトの利用等の方法など検討してもよいでしょう。
人材マネジメント上のポイント
長時間労働に対する対策
使用者は、長時間労働による健康障害防止を対策することが求められます。
具体的には、
①メール送付の抑制
②システムへのアクセス制限
③時間外・休日・深夜労働の原則禁止
④長時間労働等を行う者への注意喚起など
があげられています。
労働安全衛生法の適用と留意点
労働安全衛生関係法令に基づき、すべての健康確保措置については事前に対応策を考えておく必要があります。
また、事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)、安衛規および「情報危機作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元・7・12基発0712第3号)の衛生基準と同等の作業環境になるように、リモートワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましと言えます。
労働災害の補償に関する留意点
テレワーク勤務における災害は労災保険給付の対象です。
上記のガイドライン等に沿って適切に対処することが必要です。
また、リモートワーク導入前には、
①あらかじめ導入の目的、対象と防策なる業務、労働者の範囲、テレワークの方法等について、労使間で十分な協議をすること
②業績評価等について、評価者や労働者が懸念を抱くことがないように、評価制度および賃金制度を明確にしておくこと
③リモートワークに要する通信費等の費用について、労使どちらが負担するか、また、使用者が負担する場合の限度額等をあらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等に規定しておくこと
等が望ましい言えるでしょう。