社員が来年度の年休の前借りをさせてほしいと要求してきた場合の対応は?
最終更新日:2024.10.24
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有給休暇を獲得していない新入社員からの年休の前借り依頼。応える必要はある?
まだ有給休暇を獲得していない新人社員が、「実家のレストランが家族の病気による人員不足のため、業績悪化で困っているので、年休の前借りをしたい。その分は次年度から減らしてほしい。」と要求してきました。
そのような要求にこたえる必要があるのでしょうか。
年休の前借り要求は、応えても、応えなくてもよい
年次有給休暇の前借り要求に必ずこたえなければいけないということはありません。
もちろん選択肢とすることは全く問題ありませんが、その場合にはたとえば退職時の精算問題についての考慮などが必要です。
年休の前借り付与
年休の前借りについて、昭和29年労働省令第12号改正以前の労基則25条のただし書きは、
と規定していました。
その後それは「明記するまでもない当然のこと」として削除されましたが、改正時に発表された通達でも
とされています(昭和22・12・15基発501号)。
年休前借り処理における留意事項
有給休暇の前借り分を次年度の有給休暇日数から差し引くと、「労働者からの要求に対し最低限労基法所定の年休を保障する(労基法39条1項・2項)」という規定に反してしまう可能性があります。
そのため前年に前借りした有給休暇を当年度の年休拒否の理由にするときには注意が必要です。
しかしながら、
逆にいうと、次年度の年休が法定日数を下回るような前借りをさせたとしても、同法に反するため次年度の年休を減算できなくなります。
年休前借りした従業員がその後退職を申し出た際の対処
年休を前借りした社員が年度が変わる前に退職してしまうようなケースでは、年休を借りる際に「年度内に退職した場合、前借り分を欠勤として精算する」という取り決めを明確にしておかないと、給与の減額もできなくなるため注意が必要です。
もし年休の前借り日と退職日が2、3ヶ月以内と近い場合は調整的相殺問題として処理することも可能(福島県教組事件・最ー小判昭和44・12・18民集23巻12号2495頁)ですが、精算の時期が大幅に離れている場合はこの調整的相殺の理論は適用できず、双方の合意による相殺としての処理が必要になります。
理想的な対応は、賃金の精算減額に関する労働基準法24条1項の労使協定を事前に設定し、その基準に基づいて処理することでしょう。
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法定以上の有給休暇を提供している場合は、事情を斟酌し許可もありえる
今回の質問の場合、法定有給休暇のみを付与している組織では、年休の前借りは許可すべきではないでしょう。
しかし、法定以上の有給休暇を提供している場合には、事情を斟酌し、次年度の法定休暇日数を維持できる範囲で前借の許可を与えることも選択肢とすることができます。
ただし許可する場合は、年度内での退職を見越した退職時の前借り分の欠勤精算に関する同意を文書で取り交わし、その上で前借り分の年休を付与すべきでしょう。