労働時間は自己申告制でも良いか?会社は労働時間を把握する義務がある
最終更新日:2024.10.24
目次
各社員の労働時間を自己申告制にしている
各社員の労働時間の把握を、自己申告によって行っています。
留意するべき点を教えてください。
使用者は賃金台帳を作成し、労働時間を把握する義務がある
労働基準法では、使用者には賃金台帳の作成義務が課されています(労基108条)。
この台帳には労働時間や時間外労働時間の記載が求められています(労基則54条)。
そのため、労働者の労働時間を把握するのは、使用者の不可欠な義務とされています。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
(平成29年1月20日に策定。以下、ガイドライン)
と明記されています。
高度な専門的知識が必要で、時間と成果の関連性が低い業務の場合に限り例外
労働安全衛生法において、
とされているように、特定の労働者に対しては労働時間の把握が例外的に不要とされています。
具体的には、
●高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)
=いわゆる高度プロフェッショナル制度対象労働者
についてのみ、対象外とされています。
つまり、裁量労働制が適用される労働者や、管理監督者も含めた労働者の労働時間が適正に把握されるよう法律で義務づけられています。
また、条文の『第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導』とは
長時間働いた労働者に対する医師による面接指導を指しており、健康管理の側面からも、労働時間の適切な管理が使用者の責務とされています。
時間の把握は、タイムカードなど客観的な方法で管理が必要
労働基準法は、使用者に対して各労働者の労働日ごとの始業・終業時刻の確認・記録を義務付けています。
この記録は、労働者の健康保護や適切な労働時間管理の観点からも非常に重要です。
具体的な確認方法及び記録の保管について、労働安全衛生規則では
●事業者は前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
と、あくまで客観的な方法による労働時間の管理を定めています。
一方で、自己申告制はやむを得ず客観的な方法により把握し難い場合として位置づけられています。
これを行うことができるのは、
●事業者の現認を含め、労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合
に限定されています。
例えば、社員が社外に直行又は直帰して業務を行う場合などを指します。
しかし、社外から社内システムにアクセスする等の方法によって、客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため、
直行又は直帰であることのみを理由として、自己申告制による労働時間管理は、認められないと考えられます。
やむを得ず自己申告制度による労働時間管理をする場合の留意点
自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
ガイドラインより
自己申告制により労働時間の把握を行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
●自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
●実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い、講すべき措置について十分な説明を行うこと
●自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、心要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、人退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データでわかった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じている時には、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
●自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間についてその理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下におかれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと
●労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらす、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること
以上のとおり、労働者の自己申告による労働時間だけを労働時間として取り扱うのではなく、
労働者および管理職に対し、労働時間管理の適正な運用について周知徹底を図ったうえで、乖離の有無や労働時間の実態、および慣習について調査する必要があるとされています。
また、当該する会社が、やむを得ず客観的な方法により把握し難く、自己申告制による労働時間管理を行う場合は、
という視点からも、ガイドラインにおいて示された措置を全てを講じておく必要があります。
人材マネジメント上のポイント
労働時間の把握義務についてガイドラインが策定される以前は、
「労働時間の適正な把握のために使用者が講すべき措置に関する基準」(平成13年4月6日基発339号、いわゆる「46通達」)
が適用されていました。
今般策定されたガイドラインにおいては、自己申告制を採用する場合の事業主として講ずべき措置の内容が46通達と比べるとより詳細なものとなり、労働時間の厳格な管理がより求めらるようになりました。
さらに、2019年の働き方改革によって労働時間管理の対象となる労働者の範囲が拡大し、労働時間の客観的方法による管理が原則とされています。
自己申告制を採用している場合、ガイドラインおいて示されている措置の内容を理解し、当該措置を予め講じておく必要があります。
自己申告制を採用する場合、使用者としてなすべきことは増加しますが、
という重要な副次効果も期待できるといえます。