タイムカードを押して業務をしていない社員に、残業代の支給を拒めるか?
最終更新日:2024.10.24
目次
タイムカードを押しているのに、業務をしていない社員がいる
当社では、労働時間をタイムカードで記録しているが、社員の中には、朝出社してタイムカードを押してから、コーヒーを飲んだり新聞を読んだりして過ごす社員や、また、終業してからも、直ちにタイムカードを押さずに、自分の勉強をしたり、電車やバスの時刻に合わせて退社する直前になってタイムカードを押す社員がいます。
会社は、このような社員にまでタイムカードの時間分、残業代を支給しなければならないのでしょうか?
基本的にタイムカードの時間分は残業代が発生する
タイムカードで労働時間の管理を行っている場合、タイムカードに記録されている時間が実労働時間と推定される可能性が高いため、タイムカードの時間分は残業代を支給しなければなりません。
近時の裁判例
裁判所自身、同僚従業員らの供述から、原告である従業員が勤務時間後も会社内に詰めていたときでも、パソコンゲームに熱中したり、あるいは事務所を離れて仕事に就いていなかった時間が相当あることがうかがわれると認めていた事業で、
とし、タイムカード記載の時間をもって実労働時間であると推認されると判示しました。
さらに、
と判示し、所定の勤務時間を超えて会社内に残っていても自己都合の単なる居残りであり労働時間として評価することはできないとの使用者側の主張を退けています(仙台地判平成21・4・23労判988号53貢・京電工事件)。
タイムカードによる労働時間の管理について
タイムカードにより労働時間の管理を行っている場合、近時の裁判例では、タイムカードが証拠として提出されると、
と推認する傾向にあります。
使用者側の主張
朝出社してタイムカードを押してから、
- コーヒーを飲む
- 新聞を読んだりして過ごす
終業してから、
- 自分の勉強をする
- 電車やバスの時刻に合わせて、退社する直前になってタイムカードを押す
社員がこのような作業をしている時間は使用者の指揮命令下にはなく、残業代を支給する必要はないというのは、使用者側からは当然の主張でしょう。
労働時間が、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」(最判平成12・3・9労判778号11貢・三菱重工業長崎造船所〔一次訴訟・会社側上告〕事件)とされていることからすれば、使用者が残業代を支払う必要があるのは、
ということになります。
立証責任の所在は?
このような使用者側の主張をもっともに感じる人も多いと思いますが、実際に訴訟や労働審判等の紛争にまで発展した場合に、会社の主張がそのまま通るかといえば必ずしもそうではないのが実情です。
この点、訴訟、労働審判等において、時間外労働を行った事実については、第一次的には残業代の支払いを請求する側、すなわち社員側が主張・立証する責任を負っています。
ただし、社員側が残業代請求の根拠としてタイムカードを提示した場合、
- 新聞を読む
- コーヒーを飲む
- 自分の勉強をしている
などについて、今度は逆に会社側が、業務とは無関係の作業を行っていたとして個々に反証しなければなりません。
しかし、現実的には「社員が業務とは無関係な作業を行っていたこと」を立証するための十分な証拠を提示することは難しく、会社が社員側の主張への反証を行うことはかなりの困難を伴うことになります。
勤務時間中に業務以外の事をしないように規定することが大切
労働時間の管理をタイムカードで行っている場合には、その打刻時間の一部を「業務外」と立証することはとても困難です。
そのため、勤務時間を私用に消費することがないよう、
- 始業時刻を守るよう徹底すること
- 時間外労働については事前の許可制とし、管理職が時間外労働の必要性等を事前にチェックする体制とすること
- 終業時間後は速やかに退社し、もし業務外の理由で会社内にとどまる必要がある場合は、業務終了時にタイムカードに打刻すること
といったことを規定として明文化し、そのうえで現場での指導を徹底しましょう。
また、労働時間に関する指導を行った場合には、それを記録に残しておくなどの管理も重要です。
管理を徹底すると管理職の負担が大きくなることになりますが、労務管理上の規律と負担増とのバランスを考えながら、自社に合った管理方法を実践していく必要があります。