定期健康診断を受けない社員は違法?会社としての対応まで詳しく解説!
最終更新日:2024.10.24
目次
社員の健康診断は強制できる?
定期健康診断を受診しない社員がいますが、強制的に実施させることはできるでしょうか。
またその際は勤務時間内に実施しなければならないでしょうか。
【結論】健康診断は「強制」できる
労働安全衛生法第66条には「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」と規定しており、事業者は労働者に対して健康診断を受けさせる義務があります。
これは、事業者に実施義務を課している一方で、労働者に対しても「事業者が行う健康診断を受けなければならない」という受診義務を課していますので、強制的に受診させることは可能となります。(従業員自らが実施して、その結果を会社に提出することも認められる)。
また、定期健康診断の受診は労働時間内である必要はありませんが、行政解釈では、「その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」とされています。
未受診の場合、「安全配慮義務違反」になる恐れも…
労働安全衛生法の義務の一環として、事業者である会社は常時使用する社員に対して、1年以内ごとに1回、定期的に、医師による健康診断を実施することが義務化されています。
そして、定期健康診断を受診しない社員がいるにもかかわらず、会社が当該社員に対して受診を命じるなどといったことを行わず放置した場合、当該社員が病気に罹患したり、亡くなったりすれば、会社が安全配慮義務違反として責任を負う可能性があるのです。
就業規則で「健康診断の拒否は懲戒処分」と記載も可能
会社は、社員が定期健康診断を受診しない場合には、業務命令として健康診断を受診するよう命じることができます。
そして、会社が社員に対して業務命令として受診を命じたにもかかわらず当該社員が受診を拒否した場合には、業務命令違反として懲戒処分の対象にすることが可能です。
就業規則等において定期健康診断の実施、参加について記載すると同時に、参加状況の確認・促進の主管責任者を明確にしておいた方がよいでしょう。
また、健康診断に要した費用や、健康診断を行っている時間に対する給与支払いに関しては、行政解釈として、会社負担とすることが望ましいとされています。
健康診断は「労働時間」に含めるべき?
結論、健康診断を「労働時間に含めるべきか?」に関する、明確な規定はありません。ただし、健康被害の生じやすい業務を行っている従業員に対して行われる「特殊健康診断」については、原則業務時間内に行わなければなりません。
ここからは、上記2つの違いについて詳しく解説していきます。
「一般健康診断」とは
一般健康診断は、労働者の一般的な健康確保を目的として事業者にその実施義務が課されています。
法律上、一般健康診断を業務時間内に行う義務は特にありません。事業者が支払うべき賃金に関しても、受診時間に関しては労使間で協議によって定めるべきものとされています。ただし、労働者の健康の確保は事業の円滑な運営のためにも重要なので、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいとされています。
「特殊健康診断」とは
特殊健康診断は、有害な業務に従事する労働者に対して必要なもの(例えば、粉じん作業に関連するじん肺検診など)です。これらは原則として業務時間内に行う必要があり、万が一労働時間外で行った場合は、割増賃金の支払いが必要です。
健康診断は「有給休暇扱い」にできる?
社員から健康診断を「全日休暇または、半休を使って受診したい」と申請があった場合、原則、これを認めるか否かによって会社側が罰則を与えられることはありません。
というのも、労働基準局からの通達によると、健康診断の目的は「健康を確保」することであり、業務とは直接関係ないため、有給休暇の取得については会社の方針に一任するとしているからです。そのため、社員の合意ものとであれば、健康診断を有給休暇扱いにできます。
ただし、会社の一存で「有給休暇を健康診断に使う」ということは、会社の雰囲気や、社員との関係性を欠損する恐れもあるため、できるだけ当人の意思を尊重した上で決定するようにしましょう。
健康診断を「拒否する社員」へ、どう対応する?
社員が健康診断を拒否する場合の対処法について解説します。
ポイントは以下の3点です。
①:健康診断を受けたくない理由を聞く
当然ですが、社員が健康診断を受けたくない理由を理解し、それに共感する形で対応策を考えることが重要です。例えば、仕事が多忙であることが理由なら、健康診断を受けやすくするために、複数の日程を設定するといったアプローチが有効です。
部署によって繁忙期が異なる場合には、部署ごとに健康診断の実施時期を変えるなど、会社としてサポート体制を整え、社員に働きかけることが肝要です。
②:健康診断は法的義務であることを伝える
健康診断の受診は、従業員にとっても重要な義務です。多くの従業員が「健康診断は任意である」と誤解していることがありますが、これは法的に義務付けられていることを理解し、適切に対応することが必要です。この点を明確に伝えることで、従業員の健康管理と職場の安全を守るための取り組みを強化できます。
全社員が受診しているか把握し、プライバシーの取り扱いには注意する
社員の意識の中では、定期健康診断は義務ではなく、会社の福利厚生の一環であり、受診することが義務であるとの認識がないケースが非常に多いです。会社としては、社員の安全や健康のためには、定期健康診断を受診することは極めて有益であることを就業規則や社内通知で明確にして、受診義務があることを意識させた方がよいでしょう。
会社側は、定期健康診断を実施するだけでなく、受診していない社員の把握に努め、複数回受診していない社員がいれば、受診していない理由を確認の上で、当該社員に対して受診を命じるなどの対応をとることが望ましいでしょう。
また、健康診断の情報は従業員のプライバシーに関わる部分です。したがって、その取り扱いには十分に注意しましょう。
社員全員が納得してもらえる「ルールづくり」が大切!
「法的に必要」と言ってしまえばその通りですが、会社としては、受けたくない社員の中には、それなりの理由があることも理解しなければなりません。
その上で、就業規則に健康診断受診をマストとする記載をすることはもちろん、会社全体で健康診断を受診しにいく空気やルールを作っていくことがベストと言えます。
さかえ経営では、東京エリアの企業(200〜1,000名規模)における問題社員とのトラブル解決などの実績をもとに、社員の健康診断受診に関するトラブル解決、根本的な「会社のルールづくり」などをサポートいたします。
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