定年を過ぎた従業員(嘱託)の採用時の注意点!労働条件があいまいだと問題になる
最終更新日:2024.10.24
目次
定年後、嘱託として採用したはずの従業員が、自分は正社員と主張する
A社では雇用の調整がしやすい点を重要視し、定年年齢60歳を超えた従業員Bをいわゆるシルバー雇用の嘱託と同様のつもりで採用しました。
しかし、改めて、嘱託契約は締結していませんでした。
その後Bの成績は当初の予想を下回り、A社としてはBに辞めてもらうことを考えたのですが、Bは自分は嘱託ではなく正社員で定年の適用はなく、辞める義務はないと主張してきました。
A社としてはどのように対処すべきでしょうか。
定年後の再雇用の条件があいまいだと、雇用の終了時期・理由や退職金でトラブルに
●更新条件に一定の成績達成を条件とすること
を説明し、辞職を勧奨することが望ましいと言えます。
それらができないとするならば、一般的な解雇の合理的理由がなければ解雇は難しいことになります。
定年年齢後の従業員をめぐる紛争の増大
定年後再雇用としてであれ、あるいはいわゆるシルバー雇用としての中途採用であれ、定年年齢を超えた従業員を採用する際に、高齢者の労働市場が買い手市場であるということを甘く捉えて、労働条件をあいまいなままに雇用してしまうと、企業は、雇用関係の終了時期、理由や退職金などの点で予想外の負担を招くことになるリスクがあります。
中途採用の高齢者の紛争が頻発している
裁判例の動向
特に中途採用の高齢者について紛争が頻発し、判決にまで至った事件が増えてきました。
たとえば、大興設備開発事件・京都地判平成8・11・14(労判729号67頁)では、採用時に正社員の定年の60歳を超えていましたが、年金を受給しながら働きたいという高齢者従業員(以下、「高齢者」といいます)を、日給制で正社員に比べて短時間の勤務形態で採用した企業が、採用時の口頭の説明では定年を超えた高齢者には退職金の支給がないことを伝えていたらしいのですが(しかし、同(控訴審)事件・大阪高判平成9・10・30労判729号61頁ではこの点は認定されませんでした)、就業規則は正社員用のものしか作成していなかったところ、約7年余の勤務後の退職にあたり、この従業員が正社員の就業規則に従って計算した退職金(約104万円)を請求してきたものです。
前掲大興設備開発(控訴審)事件・大阪高判平成9・10・30では、就業規則の記載上、
うえ、
として、高齢者の退職金請求が、請求額の半額に減額はされましたが(減額理由が不分明で和解的判決となっています)、認められました。
非正規雇用者への正社員就業規則の適用
高齢者に限らず、正社員と異なる就労実態がある従業員についてそれに対応した規則や就業規則の一部または全部の適用除外を明記しておかないと、同じような問題が発生するリスクがあります。
特にいわゆる均衡待遇を求めるバート有期法8条が令和2年4月1日以降適用されており、注意すべきです(岩出・大系117頁~123頁参照)。
正社員とバート有期労働者で、別の規定の作成が必要
改正前労契法20条に関して
●ハマキョウレックス事件・最二小判平成30・6・1(労判1179号20頁)
●長澤運輸事件・最二小判平成30・6・1(労判1179号34頁)
においても、
としているので、別規程化の必要性がより高まっています。
トラブル回避できない場合のリスク
この場合の適用除外条項が制限的に解された例があり、注意を要します(芝電化事件・東京地判平成22・6・25労判1016号46頁。)。
高齢者雇用の終了をめぐる問題
(1)シルバー雇用と雇止め
また雇用期間の終了の点についても、反復継続して更新していると、高齢者の期間雇用でも更新拒絶には相当な理由が必要とされているので、シルバー雇用とて安心はできません(ダイフク事件・名古屋地判平成7・3・24労判678号47頁)。
もっとも、「60歳定年制の社員採用、63歳まで1年毎契約可」との募集広告は、定年60歳を明示したうえで63歳まで再雇用される制度があることを注意的に示したにすぎないとして、再雇用拒否を認めた例がありますが、これも就業規則での同旨の記載が決め手になっています(三井海上火災事件・大阪地判平成10・1・23労判731号21頁)。
(2)平成24年改正高年齢者雇用安定法
定年後再雇用制度の下での更新拒絶についても同様の間題があります。
裁判例では、定年後再雇用者の更新への合理的期待(労契法19条2号)が65歳まで及ぶ可能性が高まっています(シンワ運輸東京事件・東京地判平成28・2・19労判1136号58頁、エボニック・ジャパン事件・東京地判平成30・6・12労経速2362号20頁等)。
60歳以上の高齢者の期間雇用は5年が対象
5年契約の利用(労基法14条)
現在60歳以上の高齢者の期間雇用に関しては、労基法14条で、専門職等のいかんにかかわらず5年の期間雇用の対象となっているので(労基法14条2号)、今後少なくとも雇用関係終了に関するトラブル回避策の1つとして、この規定の利用も検討すべきでしよう。
ことに留意してください。
前述のとおり、
●雇用継続・更新条件に一定の成績達成を条件とすること
が証明できれば雇止めをすることになり、辞職を勧奨すべきでしよう。
それらができないと、一般的な解雇の合理的理由がないと解雇が難しいことになります。
前掲芝電化事件・東京地判平成22・6・25のような判断をも回避することができるように、
●その労働条件を区分した別個の就業規則を作成し
●その就労実態おいても、労契法3条2項やパート有期法9条をも踏まえた
体制整備をすることが対策の要点となります。