育児休業中の社員を復職させずに解雇は可能?出産・育児休業を理由に解雇はできない
最終更新日:2024.10.24
目次
会社の経営状態の悪化により育児休業中の従業員を解雇せざるを得ない
現在、会社の経営状態が悪化しているため、育児休業中の従業員を解雇せざるを得ない状況です。
いったん育児休業に入った従業員を、復職させずに解雇することは可能でしょうか?
出産・育児休業を理由に解雇はできない。経営悪化が理由なら通常通りの整理解雇
妊娠・出産・育児に関わる休業申請、またはそれらを取得したことによる解雇や、そのほか申請者や取得者が不利益を被るような扱いは禁じられているため、育児休業から復職させずに解雇することはできません。
解雇の理由が経営状態の悪化であれば、育児休業を理由とするのではなく、通常通りの整理解雇要件を満たした上で、労契法16条に従う必要があります。
育介法と均等法で、妊娠・出産・育児休業による解雇や不利益な扱いは禁止されている
育介法10条より
均等法より
さらに、
11条の3においても、育児休業の取得などが就業環境に影響を及ぼすことから、雇用管理上必要な措置を講じなければならないとした上で、労働者側が事業主に対して、マタハラ等の相談をしたことを理由に不利益な扱いを受けることを禁止。
そして、
11条の4では、事業主側が妊娠・出産などの関係言動問題に対する関心と理解を深め、必要な注意を払うよう努めなければならない等、マタハラ等に起因する問題の関連国や、事業主側と労働者側の責務を明確化
しています。
「不利益な扱い」の具体例と対象の期間
育介法や均等法でいう「不利益な扱い」とは、
- 解雇をする
- 雇止めをする
- 契約更新回数の引き下げをする
- 契約内容変更の強要(正社員を非正社員にする等)
- 不利益な自宅待機命令を出す
- 不利益な降格、減給などの不利益な算定
- 人事考課で昇進や昇格の不利益な評価を行う
- 仕事をさせない
- 就業環境を害する行為(専ら雑務など)
などです。
また、不利益な扱いを禁止する期間としては
- 育児休業が含まれていない同法65条の産前産後の休業期間中の解雇(労基法19条)
- 産後8週間を経過した日または、産後6週間を経過し、労働者側からの就労請求があった後から30日間の解雇(労基法19条)
- 出産後1年を経過せずに復職した女性労働者に対しての解雇は、妊娠関連以外の理由がない限り原則として無効(均等法9条4項)
と規定されています。
また、会社側が育児休業の取得を理由に解雇した場合は勿論のこと、それを実質的な理由とした場合にも「不利益な扱い」として解雇は無効となります。
そして、労働者はこの規定に則って、育児休業に関する理由での解雇等は無効であると裁判を起こすことや、育介法56条・58条に従いながら、厚生労働大臣または都道府県労働局長による助言・指導・勧告などの行政指導を求めることが可能です。
経営悪化による整理解雇の要件を満たせば、育児休業中でも解雇可能
育児休業を理由とした解雇は明確に禁止されていますが、育児休業中のすべての解雇が禁止されているわけではありません。
ただし、深刻な経営悪化により解雇せざるを得ない場合には、一般的な整理解雇4要件
①人員削減の必要性
②解雇回避努力義務の実行
③合理的な整理解雇基準の設定とその公正な適用
④労使間での協議義務の実行の有無
等を踏まえ、総合的な判断をしたうえで解雇をする必要があります。
解雇権を労契法16条と照らし合わせ、対象者の選定が合理的かつ公正な理由と判断されて、たまたま育児休業者が選ばれたことに疑いの余地がないよう、明確な社内手続きを経ることが必要です。
対応策
経営状態が極めて悪い場合は、配置転換を行う等、まずは解雇対象者の雇用の継続に努めます。
そのような余裕もない場合には、企業が直面している現状を十分に説明し、一定の金銭的補償を提案した上で、退職を促すこともやむを得ないでしょう。
それでも解雇対象者が退職せず、経営状態も依然として悪いのであれば、事業主側で解雇せざるを得ません。
その際、解雇の無効を主張する、雇用契約上の地位確認訴訟を起こされる可能性があることは認識しておく必要があります。
予防策
育児休業の取得が理由で解雇することはできません。
育児休業中または育児休業から復職しようとしている労働者を経営状況の悪化が理由で解雇する場合は、整理解雇の4要件を満たした上で解雇権を労契法16条と照らし合わせ、この解雇が不正ではないと認められた場合に限ります。
解雇対象者の選定にあたっても、育児休業を取得したこと自体が直接的な解雇理由ではなく、合理的かつ公正な理由で、配転の可能性が全くない育児休業者がたまたま選ばれたという状況でなければなりません。