休職中の社員について、主治医が診断書で「復職可能」としていたら必ず復職を認めなければならないか?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
病気で休職中の社員が、「復職可能」と記載された診断書を提出して復職申出をしてきました。
ところがその診断書は記載された診断名が休職時の診断名と異なるなど、疑問に感じる点がいくつかあります。
社員がこの診断書を根拠に復職を主張してきた場合、会社としては認めざるを得ないのでしょうか?
解説(基本的な考え方)
会社としては、
「主治医」との面談と「会社」の判断
会社が主治医と面談する際は、まず会社から、
- 業務内容
- 当該社員の従前の職務
などの情報を主治医に提供します。
その上で、会社側が
主治医の診断書に合理性があると判断した場合は、必要に応じて産業医の意見を求めた上で、復職させることになるのです。
また、主治医の診断書に疑問を感じた場合には、
主治医の診断書の内容及び主治医との面談結果について産業医の意見を求め、治癒の有無を慎重に判断していく必要があります。
そして、主治医との面談について社員の了解が得られなかった場合も、
診断書の信用性が低いとして、産業医の意見を求める
ことになります。
一般的な主治医の傾向
主治医の診断書の診断名が毎回異なる場合、会社としてはたとえ復職申出時に提出された診断書に復職可能と記載されていても、その診断書のみを根拠に復職させるべきではありません。
なぜなら、主治医の傾向として、
- 一定期間継続的に休職中の社員の診断をしており、当該社員の健康状態については詳しい
- 会社の業務については、社員からの説明を通じて得た情報しか持っていない
- 会社で求められる業務遂行能力を前提とした、具体的な復職の判断ができるとは限らない
- 社員やその家族の要望に沿った診断書を作成しがち
これらのことが挙げられるからです。
産業医について
産業医とは、社員の健康管理等を行う医師のことです。
その職務は、
- 社員の健康診断
- 面接指導
(安衛法13条及び安衛則14条等に規定されている)
などがあり、会社側が医師の中から選任します。
産業医の「利点」と「欠点」
産業医についてまず初めに言えることは、
ということです。
そのため、主治医からの診断書の合理性有無にかかわらず、産業医の専門的意見は求めるべきといえます。
しかし一方で、
- 主治医のように継続的に社員の診断をしていないので、休職中の社員の症状については明るくない
- 産業医がすべての医療分野に精通しているとは限らない
このような欠点もあることから、まずは主治医から産業医に社員の情報を提供してもらい、その上で産業医に社員を直接診察してもらうことが望ましいでしょう。
ただし、社員の診察を行うには、社員の了解を得ることが必要となります。
また、産業医が休職事由となった私傷病について詳しくない場合は、当該私傷病について詳しい専門医を紹介してもらうことも重要です。
社員の復職について
休職期間満了時までに休職事由が消滅(私傷病休職の場合、休職の原因となった私傷病が治癒したことを意味する)した場合、社員は復職することができます。
上記でいう治癒とは、基本的に、
です。
会社側は
主治医の診断書及び産業医の意見を確認の上、治癒の有無(復職の可否)を判断
します。
社員とのトラブル対策
復職の可否については会社と社員間で紛争になることも多く、その場合社員は主治医の診断書を武器に、休職事由である私傷病が治癒していることを主張してきます。
そのため、会社は主治医及び産業医の両方の意見をもとに慎重な復職可否の判断をすることになりますが、その具体的な対策は下記の通りです。
具体的に会社としては、休職制度設計時に
- 就業規則において「社員が復職を申し出る際は、産業医又は産業医の推薦する医師の診断書の提出を要する」として、産業医又は産業医の推薦する医師の診断書が復職可否の資料になる旨を明示する
- 「復職の可否は、産業医又は産業医の推薦する医師の診断書に基づいて会社が判断する」と、復職の可否の判断権を会社が有することを明示する
- 「会社は、必要と認めたときは社員に対して産業医又は産業医の推薦する医師の受診を命じることができる。」など、産業医の受診命令の根拠となる定めを明示する
このような条項を含めておくとよいでしょう。
ただし、現行の就業規則を変更して上記のような条項を加える場合、就業規則の不利益変更(労契法10条)という問題が生じる可能性があります。
そのため休職制度設計時には、慎重に手続きを積み上げるなど、十分な配慮が求められます。