第5回 給与計算業務の問題
最終更新日:2024.10.24
Lはじめに
前回は人事セクションの分断による情報統合の難しさ、さらには人事DXの目的の必要性について触れました。
今回は、人事DXの目的設定から意思決定の流れについて触れていきたいと思います。
人事DXの目的の仮設定
人事DX化はまだまだ不要であると考えている中小・中堅企業の経営者は多いと思います。
しかし、一方で少子高齢化、労働人口の減少という外部要因の変化、そして世代間ごとの価値観の変化により、若手社員を中心にして、旧来の企業の価値観についていけない人の増加など、これまでの価値観では通用しなくなってきていることも事実です。
弊社が人事コンサルティングを行ってきて、ここ数年、一番多くの企業が抱えている課題として、「若手社員の離職防止」がよく聞かれるようになりました。
またそれに併せて、企業の平均年齢も高齢化が進んでいます。
一定規模のある中堅企業の多くは「新卒採用」によって、毎年10名以上の社員が入社しているのが現状です。
新卒採用の人数と定年退職の人数が同じであれば、「代謝」が進んでいるといえますが、実際企業の平均年齢は上昇化の傾向にあります。
一般論ではありますが、非上場の中堅企業以下の「代謝」はあまり進んでおらず、従業員数1,000人弱の会社でも平均年齢が40代後半という企業も多くあります。
もちろん、企業としても対応を進めて、新卒採用や若手の中途採用など若返り策を強化しています。
しかし、既存の価値観と対象者のニーズのミスマッチが発生し、それに気づくことができていない場合があるのではないかと考えています。
今回はこのような事案をもとに説明していくこととします。
問題とそれを解決する目的の設定
今回、新卒採用はしているが、それらの人材が30歳前後で離職するという傾向があり、その結果、マネージャー候補がいない、育っていないことに危機感があるという前提に立ちます。
その解決策をデータ分析から導き出してみます。
以下、その解決策はもちろん、30歳前後の人材の“リテンション”ということになりますが、以下の仮説を立ててみました。
仮説1:昇格や昇給が進まない
仮説2:ステップアップしたいのにできない
仮説3:職場がキツイ
これら 3 つの仮説に対して、課題を掘り下げると以下のように表現することができます。
仮説課題1:昇格スピード&昇給モデルがない(悪い)
仮説課題2:成長実感を持つことができない
仮説課題3:雰囲気、労働時間等職場環境が悪い
この課題を分析するため、現在、整備されているデータ、別途収集する必要があるデータ等を洗い出し、必要なデータの抽出を行います。
データ分析からの仮説の検証
次にデータの分析を行います。
データの分析については以下の手法が想定されます。
1)比較分析……他の人、会社、年齢層等から比較する
2)データ間の関連性分析……データ項目間における関係性を分析する
3)データ構造分析……全体に占める割合等からデータの特性を把握する
これらを分析するために、ヒストグラムや回帰分析、相関係数の算出等の統計的手法を用いて、仮説が正しいかどうかの分析を行います。
細かい説明は、差し控えますが、ポイントとしては、ある程度仮説を立てて分析することが必要になります。
自社で行う場合においては、2)が中心になるかと思います。
単独では、傾向値が表れにくい(もしくは分析できない)ため、相関係数等の関係性を分析することが望ましいと考えています。
その場合の仮説の立案としては、以下のような例が挙げられます。
a. 退職する人 → 給与水準が低い人
b. 給与水準が低い人 → 従業員満足度が低い人
c. 従業員満足度が低い人 → 長時間労働の人 or 教育機会が少ない人
これらで立証されていなければ、同じような考えのもと、他の仮説を検討し、分析を行っていくことを根気よく繰り返す必要がります。
分析結果からの施策の立案
データによる分析が終わるといよいよ施策の立案になります。
数値から判明することを言語化し、論理的思考法を用いて、施策立案を行います。論理的思考における考え方として、演繹法と帰納法が挙げられます。
演繹法とは、一般的・普遍的な前提から、より個別的・特殊的な結論を得る論理的推論の方法です。
例えば、「人は必ず死ぬ」→「〇〇は人である」→「〇〇は必ず死ぬ」といった論法になります。
人事の論点で例を出すと、「教育を受けるとモチベーションが上がる」→「キャリアパスは教育の一環である」→「キャリアパスがあるとモチベーションが上がる」という流れになります。
一方、帰納法とは、個別的・特殊的な事例から一般的・普遍的な規則・法則を見出そうとする論理的推論の方法です。
例えば、「生き物である〇〇は死ぬ」+「生き物である□□も死ぬ」+「生き物である△△も死ぬ」→「生き物は必ず死ぬ」という論法になります。
また人事に例えると、「給与が上がると退職しない」+「昇格すると退職しない」+「教育を受けると退職しない」→「処遇改善すると退職しない」という流れになります。
その結果、当初想定されていた給与水準についてはあまり問題がなく、むしろ、キャリアパスや教育プラン、さらには現場の管理者のマインドセットが必要であることが分かり、今後、“リテンション”のために、
これらの施策について取り組む必要があることが判明しました。
ここまで、「人事DXからの意思決定の流れ」について触れました。
これらは、数学的要素と、論理的思考の両方が必要になってきます。
また、一般的な傾向値を理解していないと分析が難しい場合があります。
最低でも初年度については、社内専門家もしくは外部専門家の協力を得て進めていったほうが軌道に乗せるのは早いのではないかと考えています。
次回は、それらの活用も考慮した導入までのアプローチの考え方について触れていきたいと思います。