今さら聞けない
「ジョブ型人事制度」
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最終更新日:2024.10.24
目次
A社の従業員Bが、土日の休日に警備員のアルバイトで収入を得ていることが明らかになりました。
本人に事実を確認したところ、事実として認めました。
就業規則では許可のない副業を禁じる事業禁止規定を定めており、この行為はその規定に違反していると考え懲戒処分を検討しています。
しかし、Bは遅刻や欠勤もなく通常業務に影響を与えていないため、勤務態度や勤務成績に問題があるとはいえません。
彼に対する兼業禁止規定違反による懲戒処分を行うことに問題はないでしょうか。
アルバイトを週末にする行為は兼業禁止規定に違反する可能性がありますが、Aのように業務に影響がない場合、注意や指導は必要かもしれませんが、懲戒処分までの対応は考えにくいでしょう。
数多くの企業が、この規定を就業規則に含め、規定の違反を懲戒の理由としています。
その上、絶対的な副業の禁止でなければこの規定の合理性は通常認められており、裁判でも有効とされています。
(参考)
しかし「働き方改革」を考慮すると、政府は副業や兼業の許容へと政策を変えてきています。
そして厚生労働省は、平成30年1月に副業・兼業ガイドラインを作成し、その中で、
「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。
副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる」
としており、
原則において、副業・兼業は認めるべきとの方針を示しました。
また厚生労働省が公開しているモデル就業規則おいても、労働者の遵守事項である
「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、
原則、副業・兼業を認め、これを届出制とする旨の規定が新設されています。
したがって、兼業禁止規定の運用に際しては、これらの方針についても十分な配慮を心がけることが求められます。
兼業禁止規定が有効であるとしても、労働者の側にも、職業選択の自由は認められています。
本来であれば、勤務時間外に何をするのかは従業員の自由に委ねられてしかるべきということになります。
また上記ガイドラインおいても、「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」とされました。
そのため、形式的に兼業禁止規定に反する行為が行われたとしても、そのことからただちに兼業禁止規定に違反しているということにはならないものと考えるべきでしょう。
裁判例の中にも、一時的なアルバイトではなく、相当期間継続する意図で開始された二重就職で、しかも、会社を継続して欠勤していたというケースについて懲戒解雇にあたるとした事例があります。
(参考)阿部タクシー事件・松山地判昭和42・8・25労判27号3頁
また、病気休職中に内職をしていたというケースもあり、会社の企業秩序には影響を及ぼさず、会社に対する労務提供に格段の支障を生じさせていないものについては、就業規則で禁止される二重就職にはあたらないという理由で、その内職についても二重就職と認めず、これを懲戒解雇にすることはできないとした事例もあります。
(参考)平仙事件・浦和地判昭和40・12・16労判15号6頁)
上記の裁判例などを踏まえるならば、仮に従業員が兼業を行い、兼業禁止規定に抵触する事実があったとしても、
については、兼業禁止規定に違反しているということはできず、これらを理由に懲戒処分を下すことは難しいといえます。
質問の場合、休日のアルバイトで疲れてしまうこともあるは考えられますので、会社業務への支障が全くないとは言い切れません。
しかし、実際には、
ということであれば、本人から事情を聞いたり、会社業務に影響を与えないように指導・注意をしたりする程度で留めること賢明とも言えます。
その他の特別の事情(たとえば競合会社でのアルバイトの場合や、深夜にまで及ぶアルバイトの場合等)がない限りは、兼業禁止規定に違反しているとして当該従業員に懲戒処分を課すことまでは難しいといえます。
従業員が兼業を必要としないように労働条件を充実させたり、日頃の指導の徹底などを検討してもいいかもしれません。
上記ガイドラインのとおり、政府が副業・兼業を認める方向に方針転換をしており、最近では会社の業績悪化によって賃金が抑制されているという状況や、社外での副業・兼業での経験や人脈などを自社事業に還元することを期待して、むしろ従業員の副業・兼業を積極的に認めるという企業も多くなってる社会的背景も考慮してもよいかもしれません。
会社の業務に支障があるような場合や、企業秘密保持の観点から間題のある副業・兼業を認める必要まではありませんが、会社の業務に支障がない範囲での兼業であれば、それを認めることが会社にとって有益な方法となる場合もあります。
懲戒処分の困難性を十分に踏まえたうえで、会社としての方針を確立することが必要だといえます。