業績悪化による賃金減額、社員の反対をどう乗り越える?法的観点からの解説
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
コロナの影響もあり、弊社の業績は厳しい状況が続いています。
一旦、社員の賃金を減額して、業績の向上を図りたいと思っていますが、社員が反対しています。
このまま賃金の減額をしても問題ないでしょうか。
解説(基本的な考え方)
賃金は、労働条件の中でも最も重要な条件です。
労働者にとって生活に直結する資源であり、それを減額するということは大きな不利益を被りかねません。
賃金を減額するには、原則として、労働者の個別の同意が必要です。
しかし、労働者の同意を得ればどのような形でも良いというわけではありません。
その同意の有無の判断については、慎重に行われなければなりません。
その不利益変更を受け入れるという労働者の行為があるとしても、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がなされるに至った経緯、当該行為に先立つ労働者への情報提供または説明等の内容に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいて為されたものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するか否かとの観点からも判断されるべきものとされています。
さかえ経営では、給与計算のアウトソーシング、社員間のトラブル解決など労務に関するあらゆる問題解決をサポートします。
トラブル回避できない場合のリスク
賃下げ、もしくは賃下げにつながりやすい賃金制度の変更は、労働条件の不利益変更の問題として係争化しやすいというリスクがあります。
賃金の減額は、重要な労働条件の変更であり、基本的には就業規則や労働契約、雇用契約等で、減額する事由が根拠づけられていることが必要です。
賃下げにおいては、
・職位と賃金の連動が明らかとなる客観的、合理的根拠が必要(ブロッズ事件・東京地判平成24・12・27労判1069号21頁)
・同意についても、自由な意思と客観的合理性があるかどうか
が少なくとも問われる場合があります。
社員が減額に反対していた場合、個別の同意を得ることが難しく、減額の対象である賃金が、基本給の減額であれば、特に不利益性の程度が大きいため、給与規定による一方的な変更はハードルが高いです。
規程・マニュアル作成上のポイント
賃下げは労働条件の中で、最も重要である賃金の低下という労働条件の改悪を意味します。
裁判例では、どのような賃下げ方法でも、(特に大幅で、中高年労働者といった特定階層へ狙い打ちするような急激な賃下げに対しては)黙示の合意を否定したり、賃下げを招く降級・降格、就業規則の変更・労働契約の締結などについては無効とするなどの、慎重な判断を示しています。
賃下げの根拠規定を整備して、公正評価配慮義務等を踏まえた適正な給与規定を整備の上、その賃下げが賃下げ規定の適用要件を証明できる証拠の確保が重要となります。
運用上のポイント
賃下げを実施する場合、そもそも賃下げがいかなる措置としてなされるのが最も適当かを吟味しましょう。
その上でその根拠規定の整備の有無を点検し、未整備の場合は適正な整備をしてください。
賃下げ規定の適用要件の証明は十分かどうかしっかり吟味したのち、慎重な準備の上で賃下げを実施することが必要です。
具体的には、経営状況が厳しく、コスト削減が必須である、といった高度の必要性に基づき、変更に伴う経過措置(段階的に基本給を減額するなど)や代替措置(基本給を減額した代わりに手当を増額する)を講じたうえで、社員と協議を尽くして変更を実施しなければ、減額は認められない可能性が高いでしょう。
さかえ経営では、給与計算のアウトソーシング、社員間のトラブル解決など労務に関するあらゆる問題解決をサポートします。
人材マネジメント上のポイント
人件費のコストを下げるときに最も重要なのは、回復する見込みがあるのかどうかということです。
一時的な売上減にもかかわらず、人件費を下げることは、将来、回復した時に対処ができない可能性があります。
その結果、会社そのものが小さくなってしまう恐れがあります。
その点を十分踏まえて対応する必要があります。
それを前提に、人件費のコストを下げるためには大きく分けて2つのアプローチがあります。
1)賃下げ
2)人員整理
賃下げについては、全社として賃金制度の変更という措置を講じることによる対応も考えられますし、時短(ワークシェアリング)の対応も考えられます。
また、人員整理についても、対象者を全員にするのか、パフォーマンスが低い人に絞るのかという考え方ができます。
法律的には全員を対象にした方が良いのですが、優秀な人材の流出を招いてしまうので、人材を限定した方が良いかと思います。
そのためには、日々のパフォーマンス測定は不可欠になります。