人の役割の変化―企画・専門化―(2)
最終更新日:2024.10.24
はじめに
今回は、「AI」の導入により、人の役割がどのようにシフトするのか。
生産性向上とは何かということについて触れていきたいと思います。
AI(人工知能)と従前システムとの違い
現在の新卒採用を見ていると、今後、金融機関の一般職が大幅に削減される予定のようです。
理由としては、自動化の促進により必要人員が少なくなったとのことですが、今後、この流れが加速すると考えられています。
この議論は、単純作業がなくなり、複雑な業務にシフトするという単純なものではありません。
これまでのシステムとAIの最大の違いは、膨大なデータから「学習する」ということです。
記憶することは従来と変わりませんが、「どのような内容を学習させるのか」「その情報をどのように整理するのか」ことが重視されます。
よく誤解されているのが、従来のシステムと違う点は、単純に「A=B、B=C」よって「A=C」というものではなく、AIは膨大なデータ量から傾向をつかみ、「想定される最適な答え」を導き出すというものです。
その答えは、必ずしも、正解を導き出すとは限りません。
例えば、髪の毛が逆立っている母親の写真を分析しようとすると、95%は母親として認識するが、残りの5%は全く違うものとして認識するといった例もあります。
つまり、人の役割としては、その誤差を認識・修正することが必要になってきます。
従来の自動化や計算スキルの代行だったものが、膨大なデータ量からより最適な答えを導き出すというわけですが、
その最適な答えが必ずしも正しいとは限らず、人による検証作業が必要になってくるということです。
人の役割のシフト
以前に人の役割は企画的なものにシフトすると触れました。
職場環境が良好でないと、自発的に前向きな発想を持つことが難しく、また、生産性の関心も高くなければ、改善活動等変化についていくことができないと説明しました。
今回はもう少し詳しくそのことを説明したいと思います。
例えば、給与計算では、従来は入力・イレギュラー対応がメインだったが、これからはアウトプットが正確かの検証作業や、イレギュラーに対してどのように学習させるかを検討するという形に変化します。
経理業務では入力結果の確認を振替伝票や試算表などで確認することや、イレギュラーの仕訳が適切に処理されているかの確認になります。
一番大切なのは、給与計算にせよ、経理業務にせよ、システムに頼らず自ら「正解をキチンと算出できる」スキルです。
個別業務の把握ではなく、全体の業務フローを把握していることが肝心なのです。
これらのことを理解してアプローチしないと、検証作業が膨大になり、不必要な業務が増え手作業の方は効率的だったという結論になりかねません。
単に作業だけに従事しているとこれらの処理の検証ができず、人としての役割の意味が全くなさなくなります。
「なぜ、こうなるのか」「どうすれば改善されるのか」を日々考える必要はあり、そのような状態にするためには、職場環境の改善や生産性向上の意識の醸成が不可欠になるのです。
知識から知能にシフト
人の役割の変化は色々な表現がありますが、一言で言うと「知識から知能」に変化するということになります。
単なる知識の習得だけではなく、それを活用するスキルが求められます。
例えば、簿記の知識があると同時に、その原理原則を理解したうえで決算書を作成することができたり、また、給与計算の論点・ポイントを理解しうえで、給与計算をすることができる、などです。
また、結論ありきではなく、問題課題に注視し、仮説検証や論理的な思考を繰り返し実施し、最適な結論を導き出す習慣がないと、人工知能を導入しても、より良い効果を得ることは難しいでしょう。
その一方で、知識に関しては急速に陳腐化していく可能性があります。
よくある話として、試験会場に参考書や辞書を持ち込むことができたとしても、ある程度下地がないと、それを上手く活用できないということがあったと思います。
仕事においてもそれがいえます。
知識だけでは何の役にも立たず、それらをどのように活用するのかがますます重要になってきます。
要するに、経験を含めたそれらをいかに組み合せて、どう問題を解決していくかということが求められているのです。
データ整備の重要性と生産性向上におけるAI
知識等の集約が求められるため、以前にも触れましたが、AIの活用においてデータ整備が重要になります。
どのデータが必要かということも大切ですが、それらを組み合わせてどのような活用をするのか、その結果として、データの量・質が決定されます。
人は少ないデータ量で判断することができますが、AIは同じ結果だとしても、多くのデータが求められます。
また、そのデータに対する背景も変わってくるため、諸条件をどのように設定するかも重要になってきます。
求める答えとそのデータの因果関係を理解していないとデータ収集さえ困難になってしまいます。
また、生産性向上における人工知能の役割は、インプットの量の削減は勿論ですが、同時にアウトプットの品質を意識することが必要です。
インプットにおいては、業務分析を行い、どの業務に一番無駄があるのか、削減効果があるのかを特定し、どの部分を自動化するのか、その検証作業における工数はどれくらい必要のかを的確に見極める必要があります。
また、アウトプットにおいては、当初想定した品質が維持できているのかを検証する必要があります。
自動化ということばかり先行していますが、データ選定から人による検証は決してなくなる作業ではありません。
そういった意味では、業務における根本的なスキルは、十数年前と何も変わっていないと言えます。
ただ、近年の自動化の流れにより、「考えなくてもできる仕事」が増えたのは事実であり、その発想の転換には人材マネジメント上、相当の労力が必要になってくるものもまた事実になります。
最後に
今後人材の高度化・思考能力がますます重要になってきます。
一方で、人の役割に対する価値観の転換も求められます。
AIをうまく活用するには、「日々考えること」が求められます。
もし、そのような習慣づけがなされてないと、相当な時間を要するため、今から策を講じる必要があると考えています。
今回は「AI」の導入により、人の役割がどのようにシフトするのか。
生産性向上とは何かということについて触れていきました。これまで述べてきたことを踏まえて、次回からは実際にどのようなアプローチが必要なのかということを事例を交えて説明していきます。