事例研究(1)
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は「AI」の導入により、人の役割がどのようにシフトするのか、生産性向上とは何かということについて触れていきました。
今回は、その生産性向上に関して、事例を交えて、実際にどのようなアプローチが必要なのかということを解説していきます。
X社の企業概要
業種 | 運輸業 |
売上高 | 約190億円 |
生産拠点 | 国内8拠点 |
社員数 | 約300名 |
主要顧客 | 製造業、他 |
✕社は大手企業の関係会社であり、これまで安定したビジネスを行っていました。
しかし、近年、親会社からの売上が減少傾向になっていました。
売上が減少した理由は、より価格の安い他社に依頼を移されていた、もしくは自社で賄うようになっていました。
企業規模が小さいため、新たな付加価値をつける必要がありましたが、長年の培ってきた価値観の見直しが難しい状態でした。
製造・建築もできる多能工化という方向性は、当初からありましたが、労働時間の増加やスキル不足に問題があり、先送りされていました。
主な施策
✕社における主要な実施施策は下記のように分類できます。
1.業務分析を行い、業務の無駄・集中を把握する
2.労働時間の増加を抑えつつ、必要な業務に人材を振り向ける
システムや機械などを導入する際に必要なのは、どの部分の業務にムダ、もしくは人が集中しているのかを的確に見極めることです。
それらの活用のイメージがついていないと、結局ムダになる可能性が高くなります。
そのため、まずは全業務に対して業務分析を行い、その結果に対して、それぞれ必要なアプローチを行うことが求められます。
そして、その際に労働時間が増加しないように人員数と労働時間を注視し、配置転換やキャリアチェンジを促す必要があります。
AI導入の全体像(業務効率化)
業務効率化における業務分析、問題点の把握、詳細分析について解説します
STEP1:
まず簡易的な手法により全体の業務分析を行う。
どの業務に問題があるか、そして全体の人員構成と業務の割合などを明確にする。
STEP2:
特定業務ついて詳細に業務分析をすると同時に、適切な業務フローや必要人員数を算出する。
その際にシステム化等の検討も行う。
最初の業務分析は効率よく全体像を把握することを主眼とし、簡便的な手法で実施しました。
しかし、原因把握のため、特定の業務の区別は厳格に行いました。
それ以外ついては大雑把にしました。
メッシュは、運送業務、到着待ち時間、仕分け業務、組立業務、その他等に分類しました。
その結果、運送業務が最も多いのは当然ですが、次に多かったのは仕分け業務でした。
また、間接的な業務としては、本部への連絡事項はマニュアル化されておらず、相当な時間を費やしていることが判明しました。
そのため、まずは仕分け業務の改善と本部への管理事項の改善について着手しました。
仕訳業務の流れを詳細に分析しました。
その結果、仕分け業務の中で一番、人と時間が集中していた作業は、在庫の量と持ち出し量の把握、それに伴う荷物の整理でした。
そのため、RPAを用いた物流管理システムを導入すると同時に、実際の運搬も一部自動化することに成功しました。
また、本部との伝達業務はシステムの統合により作業量を減らしました。
全体として、仕分けの業務が半減もしくは3分の1になると試算できました。
荷出し業務をはじめとする仕分け業務の削減や本部等からの管理業務が削減できたため、営業や運搬体制全体の見直し(企画)業務にシフトしたいと考えていました。
人材の活用とキャリアパス
営業や企画的な業務ができる人材を選定するとともに、抜擢と登用を強化しました。
全体の業務の見直しには、船頭が必要との判断でした。
管理職の定義を実施し、それに適合する、もしくは適合する可能性がある社員については、接触的に、登用すると同時に、その分の報酬も支払いました。
ここで狙いは、これまで漫然とした業務体制でしたが、管理・統制(良い意味で)を図っていく上で、管理者の数・スキル共に絶対的に不足しており、それを補うことにより、業務効率化が飛躍的に進むことでした。
一定程度の効果が出るのに8カ月程度を要しました。
その後、育児制度の充実やワークライフバランス等の施策を導入していきました。
最初は利用者も少なかったのですが、徐々に増えていきました。
また、労働時間がある程度減ったため、社内のコミュニケーションも良くなってきました。
今後は時間労働に頼らなくても、給与が増加し、モチベーションが向上するような人事制度を構築する予定です。
単に削減できるからと言って、安易な「「AI」導入はコストがかかるだけでなく、「便利にはなるが、時間や人員数はさほど変わらない」という事態になってしまいます。
単に時間が余るだけでは、多くの場合、別の余計な業務を発生させる可能性があるからです。
今回は、業務削減におけるAI(RPA)の活用プロセスについて触れました。
次回は、HR-アナリティクスに関しての具体例について触れていきたいと思います。