事例研究(2)
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は、具体例を交えて、業務削減におけるAI(RPA)の活用プロセスについて触れました。
今回は、HR-アナリティクスに関しての具体例について触れていきたいと思います。
Y社の企業概要
業種 | 事務用機器卸売業 |
売上高 | 約160億円 |
生産拠点 | 国内15拠点 |
社員数 | 約200名 |
主要顧客 | 各一般企業 |
Y社は、一般企業に対して、コピー機やFAXなどの事務用機器や、ソフトウェアの販売・導入、電話回線等の工事を行っています。
数年前の分社化以来、売上・利益ともに順調に伸びてきましたが、事務機器が手軽になりつつあるなか、現在は、頭打ちもしくは、売上が下降傾向にあります。
単なる御用聞き営業ではなく、顧客のニーズを把握し、提案できる人材を求めています。
まずは現状の人材マネジメント上の問題点を把握し、それをベースにどのような人材を採用・育成するのかを検討することにしました。
新規社員を採用するのか、それとも既存社員を育成するのか、また、教育制度や人事制度、採用基準など「何をどこから手をつければよいか」困惑しておりました。
主な施策
対象会社における主要な実施施策は下記のように分類できます。
1.弊社人材測定ツール「HR-PROG」を活用して、やりがい等の状況を測定する。
2.データを収集し、現状の人材マネジメント上の問題を把握し、改善活動を行う。
以前にも触れましたが、集められる可能性があるデータから、HR-PROGのデータを用いて、解析し、その結果をもとに、各人事施策に展開します。
HR-PROGによって、やりがいや取り組み姿勢の項目を数値化されているため、その数値の傾向に対して、退職者の属性や好業績者の属性、さらには職種・ポジションごとの動向に関するデータを重回帰分析等の手法を用いて分析を行います。
例えば、退職者の動向の場合だと退職の個人属性はもちろんですが、退職に及ぼす影響に関するデータも必要になります。
例えば、評価データや教育履歴、社内サーベイ結果、その他、退職に影響する、もしくは影響すると想定されるデータになります。
分析のプロセス
まず役職者の動向を分析しました。
また、過去5年間の間に採用した従業員の動向も分析しました。
分析内容としては、下記の通りです。
① 取り組み姿勢・職務適合性(HR-PROGデータより)
② 業績(評価:定量・定性の両側面)
③ 離職状況
④ 経歴(年数)・スキルの定量分析
⑤ 年齢 など
まず、HR-PROGの結果が下記のようになりました。
(1) リーダータイプ ・・・ 20.8%
(2) 調整役タイプ ・・・ 3.4%(新規ビジネスに必要なエリア)
(3) 専門家タイプ ・・・ 73.5%
(4) 芸術家タイプ ・・・ 2.3%
レポート結果は、衝撃的でした。
多くの人が、専門家タイプだったのです。専門家タイプは、一人で、高度なことを黙々と行うような人材を指します。
Y社の希望している人材とは、全く異なる結果でした。
単なる作業員ではなく、顧客から「問題・課題」を聞きだし、最適なソリューションを提供できる、
コンサルタントのような人材を求めているにも関わらず、人材マネジメントの運用が全く変わっていなかったことを痛感しました。
次に職務適合性が高い人材が現状でどのような状況になっているのかを検討しました。
① 評価との関連性:職務適合性と評価結果との関連性
・・・ 相関係数約70% :評価が高ければ高い程、職務適合が乖離していく現状がある
② 離職との関連性:職務適合性と離職との関連性
・・・ 相関係数約82% :職務適合が高ければ高い程、離職する傾向にある。
③ 経験年数との関連性:職務適合性と経験年数との関連性
・・・ 相関係数約36% :この2つの相関はあまりないと判断できる。
④ 取り組み姿勢(会社に対するロイヤリティ―):職務適合性と取り組み姿勢との関連性
・・・相関係数約63% :職務適合が高ければ高い程、会社に対するロイヤリティーがない傾向にある。
分析の結果、今回着目したのは、②と④です。
新しいビジネスを行う人材がなぜ離職するのか、
そして、なぜ会社に対するロイヤリティーがないのか、この2つについて更なる分析を行いました。
職務適合性が高い人材に対して、報酬・社風・業務・役職(ポジション)・休暇等プラベートの充実などの項目でアンケート調査を行いました。
その結果、充実していない項目順に列挙すると、役職(ポジション)→社風→報酬→休暇等プラベートの充実→業務の順になりました。
当初の想定としては、報酬だと考えられていましたが、ポジションが低いため権限がなく、しかも業務に対して“疎い”上司の決裁を得る必要があるため、ムダな作業やストレスがかかっていたことが判明しました。
人材の活用とキャリアパス
現状に対しての対処方法は主に下記のように実施しました。
① 専門部署の創設
② 職種別人事制度の導入
専門部署の創設は、これまで「顧客ベース」に展開されていましたが、機能ベースに再編しました。
部門長は外部の経験豊かな人材を採用し、配置しました。
これは既存の価値観・社風に捉われない組織運営を目指すためです。
決済・業務承認等のストレス・ムダな作業をなくすと同時に、部門別損益管理をすることにより、適正な報酬を支払うことができると考えました。
また、アワード制度や積極的な外部研修の参加促進等、従業員に受け入れられる制度も実施し、スキルの向上とモチベーションの向上を図りました。
既存従業員からの反発もありましたが、次第に社内において認知されるようになり、異動を希望する従業員も増えてきました。
その結果、離職率も低減し、業務が効率化され、在籍従業員の満足度も向上しました。
さらに、昨今のシステム化ブームもあり、3年後には既存ビジネスと売上がほぼ同じになると同時に、利益についてはほぼ倍という結果になり、報酬も同業他社より高い水準に設定することができました。
今後は定期的にHR-PROGを実施し、その他の情報を掛け合わして分析することにより、問題が露見される前に適切に対処するような運用を実施しました。
以前にも触れましたが、どのようなデータが必要なのか、その情報を整備することが最初の第一歩になります。
その際、できる限り、先入観を持たないような分析等を行う必要があります。
組織全体の機動力が高ければ高いほど、データ収集から分析、改善の施策が効果的に実施することができます。
これまで2回にかけて、AIマネジメントの事例を解説しました。
次回は最終回としてこれまでの論点整理をしたいと思います。