日本版ジョブ型人事制度の未来:トレンドと成功への道筋
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は、日本版ジョブ型人事制度の導入事例について記載しました。
成功のポイントは、会社として「どのような人材を処遇するのかを明確にする」、「キャリアパスの意識する」、そして、「教育体系等に紐付け」、そして、「それらを理解、納得、浸透した上で、報酬との関連付けを行う」、ことだと考えています。
これまで、7回にわたり、日本版ジョブ型人事制度について触れてきました。
最終回の今回は、これまでのまとめとして、これから日本版ジョブ型人事制度がどのように進むのか、
そして、どのような変貌を遂げるのかを説明して行きたいと思います。
突然の脚光
ジョブ型人事制度は、20年近く前に、すでに日本で登場していた論点です。
当時は、年功序列型が主流であり、そのアンチテーゼとして、成果主義が登場してきました。
成果主義の背景で普及した代表的なものが、「目標管理(Management By Objectives(MBO))」になります。
それと同時に登場したのが、「職務等級制度」という概念です。
内容は現在のジョブディスクリプションとほぼ同じものです。
浸透過程において、目標管理については、成果主義のもと、一部“ノルマ管理”とも言える目標を管理する手法で浸透していきました(目標管理、本来の議論はここでは省略します)。
しかし、職務等級制度については、職務(業務)の単位を精緻すぎると、ジョブディスクリプションそのものの作成が難しい、また、仮に作成できたとしても、メンテンナンス等の運用が難しいと言われてきました。
確かにそのような理由もありますが、一番の理由は、職務等級制度は、当然のことながら職務(従事している業務)で評価されます。
しかし、一方で、実際の格付け(等級)は、ある程度年功序列的になっているため、移行にあたり変化が激しくなることも敬遠された理由の一つだと考えています。
しかし、2020年3月以降、新型コロナウイルス騒動により、人々の生活スタイルが大きく変わりました。
不要不急の外出を避けなければならず、自宅にこもる機会が多くなりました。
そのため、人々の働き方にも大きな変化を与えました。
これまで、出社して働くことが当たり前だったのが、突然、リモートワークが中心になりました。
リモートが中心になり、各人ごとの従事している業務が見えにくくなったことがきっかけに、職務等級制度がジョブ型という名称を冠して、一躍脚光を浴びることになりました。
日本におけるジョブ型の可能性
こうした背景から急激にジョブ型が注目を浴びるようになりました。
しかし、現在は20年ほど前とは異なり、労働人口の減少等に理由により、人材の不足による優秀な人材のリテンションの論点の登場、2000年代前半まで続いた採用抑制の結果として、年功序列制度が崩れつつある状況などにより、受け入れやすい風土はあると思います。
しかし、まだまだ、旧来の価値観が根強く残っているのも現状です。
そのため、企業においても興味はある、また人件費の再配分も行いたい、優秀な人材を確保したい、などの問題意識はあるけど、いきなりジョブ型に移行するのはドラスティックであると考えている企業が多いのも事実です。
それでは導入にあたり、どのような対応が必要なのでしょうか。
諸外国と比較すると、日本の企業は「育てる」という意識が非常に強い傾向があります。
「育てる」という概念はどこの国もあり、専門性を高めるということが多いですが、日本の場合は、管理者等会社の幹部候補として育成するという側面が強い傾向にあります。
管理職を育てるという発想自体は、間違っていないと思います。
しかし、管理職育成という視点とジョブ型という視点は異なると思われます。管理職は、その会社におけるマネジメントが重視され、ジョブ型は、ある特定の種類の業務のレベルを上げ、スキル・経験則を高めることが重視されるという側面があります。
さかえ経営では、日本においても管理職育成の視点とジョブ型の視点のミックスが相応しいと考えています。
それらを従業員に見せることにより、どのような取り組みをするべきかを明確にすること(キャリアパス)、そして、各グレードに応じた処遇を行うことが必要になります。
そして、移行のアプローチとして、ハレーション等を懸念するのであれば、まずはキャリアパスを明確にし、内容等を浸透させた後、数年経過後に、報酬制度等の処遇を行うという手法が考えられます。
教育体系への寄与
ジョブ型人事制度の最大の特長は、従業員の保持スキル・レベルと従事している職務(業務)が可視化できるということです。
また、組織機能の変更にあわせて、必要な職務(業務)を洗い出すことが習慣づけられているのであれば、適正な人材配置も可能になります。
そして、従業員の保有スキルの数を増やす、またはそのレベルを上げるために、あるべきスキル・レベルを設定することにより、そのギャップが測定でき、そのギャップを埋めるためのアプローチが教育体系になります。
それをもとに、研修・自己学習、OJTなどを実施することで、より理想の組織に近づくことができると考えています。
さらに発展させていくと、高業績者の傾向や離職との関係性、評価制度とスキル・レベルとの乖離を図ることにより、教育体系、および実際の結果・業績等が一気通貫になり、組織の課題はもちろん、従業員個々人の課題と改善の方向性が明確になります。
現在、クラウドの人事管理ツールが普及していますが、それらをうまく活用することにより、組織・従業員の個々人の動向を把握、管理、育成・配置が可能になります。
また、従業員側も、今、どの位置づけにあって、どのような方向性を向かえばよいのかを知ることができ、自己研鑽につなげることができます。
一方、現状に満足している従業員は、特に成長するためのアクションを起こさなくなるようになるため、今のポジションにステイすることになり、結果的に、単なる経年経過による人件費の上昇を抑えることにもつながります。
ジョブ型人事制度の今後
新型コロナウイルスによる在宅勤務の浸透により、それまで社内の対面だったものが、突然、皆が別の場所で働くということになり、見えないので評価ができない、何をしているか分からないといった声が挙がるようになりました。
その対処方法として、「個々人の業務の可視化」という論点が着目され、ジョブ型人事制度が再び急速に注目されるようになりました。
しかし、日本の雇用形態に合わないと言った現状もあり、浸透は時間がかかると思われますが、今後、日本の雇用形態の変化に対応するか、そのままでいるか、企業は大きな分岐点に立っています。
すべての企業にジョブ型合致するとは思えませんが、人材マネジメントの課題が解決できる場合もあります。
20年前の時は衰退しました。
しかし、これからのジョブ型人事制度は、今ほどの「ブーム」は続きませんが、日本流の解釈になりながら、ある程度は継続すると思っております。
私も本来のジョブ型人事制度の主旨を逸脱することになく、今後も日本企業により合致する日本版ジョブ型人事制度をブラッシュアップしてきたいと考えています。