第4回 人事DXの目的設定から情報収集のポイント
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は、現在の給与計算・社会保険業務の現状と問題点について触れました。
今回は、人事DXの目的設定から情報収集のポイントについて触れていきたいと思います。
人事DXの目的の設定とデータ収集の考え方
前回でも触れたように、人事のデータ分析は以下の2つがまず必要になってきます。
1)データ分析をする目的
2)分析をするために必要な情報
まず、 1)についてですが、前回の例であると「退職者分析」です。
それに至る経緯と類推すると、以下の流れになります。
「退職者が増えている → 退職者の多くが必要な人材である場合が多い
→ 必要な人材とは、例えば、管理者・新卒5年目、高業績者などという印象がある」
この場合は、全体の退職者の動向から、管理者・新卒5年から10年の社員、評価が高い社員の動向を分析することなります。
次に、 2 )についてですが、退職者分析ということなので
新卒採用者・中途採用者/社歴・当該業務(役職)の従事履歴
/ポジション・等級/評価/給与情報・時間外労働時間
/適性検査結果/職種/業績/欠勤・休暇取得状況/教育・研修履歴
などの情報が必要になります。
次に、それらの情報をどのように集めることになるでしょうか?
①新卒採用者・中途採用者/社歴・当該業務(役職)の従事履歴/職種
……人事マスタ情報
②ポジション・等級
……過去から現在にかけての人事マスタ情報
③評価/業績給与
……評価結果情報(過去数年間)
④給与/時間外情報/欠勤・休暇取得情報
……勤怠情報・給与情報(過去数年間)
⑤適性検査結果/教育・研修履歴
……それぞれの結果(過去数年間)
ここで、収集のために必要なポイントは以下3点です。
A)従業員の属性情報であるが、給与計算に必要な情報以外の情報
…… ①・②
B)給与計算に使用されている過去の履歴情報(マスタ情報含む)
…… ④
C)従業員の属性情報ではない情報
…… ③・⑤
A)についてですが、人事情報として管理されている場合、あるいは給与計算に直接的に影響しない情報であるため管理されていない(もしくは別管理)情報である場合が多いです。
しかしながら、通常の人事管理ツールであれば、デフォルトで設定できる場合が多く、入退社・異動の際に適宜入力していくことは可能です。
B)についてですが、給与計算ソフトは、従業員マスタ情報を更新すると前の履歴が残らない仕様になっている場合がほとんどです。
そのため、変更の際は、前の情報を別のツールに移し替える必要があります。
給与ソフト側で管理ができない理由としては、システム的には可能であったとしても、人的要因でエラーが発生することが想定されるため、あえてそのようにしているケースがあることが推察されます。
C)についてですが、近年、各種検査や研修等の教育を積極的に推進している企業が多いですが、「やりっぱなし」になっているケースが多く、その1つの要因として、それらの結果・履歴を適切に管理していないことが挙げられます。
これらの情報は、入力、記録・管理できる人事管理ツールも多くありますが、データベース化できないものも多々あります。
情報の収集・集約化のポイント
これらの情報を収集・集約化するポイントは、2つあります。
1つは必要な情報を必要な場所に入力をするということです。
当然のことではありますが、まず大切なのは、日々の業務フローにおいて、過去の履歴を含めて、1つにデータ化するということです。
現在においても、これらの情報は“どこかに”存在していますが、情報がいろいろな場所にあり、収集・一元化に時間がかかる場合が多いのではないでしょうか。
それらを1つのシステム、もしくは1つのファイルに集約する業務フローを構築するということです。
その際、データレイアウトの統一はもちろん、評価等の結果に関して、基準を統一しておく必要があります。
例えば、ある年はB評価であるのに対して、別の年は全く同じ結果であるのにもかかわらずC評価であると、データの評価を経年的に行うことが難しくなってしまいます。
また、定性的な指標についても、その都度、統一化された視点で、定量化しておく必要があります。
この論点においては、データ分析する際に設定することはできますが、定性的なものが積み重なると、あるタイミングで、1つの基準で定量化することが難しくなってしまう場合があります。
そして、もう1つは、情報の収集・閲覧権限を見直すということです。
給与等の情報はセンシティブな情報であり、企業によっては、ある一定の役職・ポジションでないと閲覧することができない場合が多々あります。
その結果、情報集約において障害が発生する場合があります。
閲覧できる人はある程度の上位者である場合が多く、その人たちが実際のデータ収集・入力を行うことはせずに、情報が散乱したままという事態になってしまっているケースです。
しかし、給与計算業務そのものは、事務担当者や外部のアウトソーサーに依頼している場合が多く、その人たちのほとんどは一定の役職・ポジションというわけではありません。
つまり、機密さえ守られていれば、誰が行っても問題はないわけで、それらの権限を整理することで問題は解決できるかと思います。
その設定にあたって、各部署・人がバラバラであったとしても、それを統合する部署・人が決まっているのであれば、問題はないかと思います。
Excel活用の再検討
過去の履歴や研修等の教育情報などの入力、定量化されたデータの加工など、既存の人事管理ツールでは難しいことが多々あります。
前回お話ししたように、それぞれの目的に応じてツールが異なるため、すべてを網羅することができるツールはないかもしれません。
その場合、ツールに合わせて運用を変えることもできるかと思いますが、まずは収集しやすい環境という意味では、収集・格納が難しいデータについては、Excelに入力するとしてもよいかと考えています。
Excelのメリットとしては、使い慣れている、データの加工・レイアウト変更が容易などのメリットがあり、これまでデメリットであったデータの分散(時系列が異なるファイルの点在)においては、Googleをはじめとして、共有ツールが普及しており、そのデメリットはかなり解消されているのではないでしょうか。
データ分析に当たって、もちろんデータが綺麗に格納されているに越したことはありませんが、それにこだわるあまり、データの入力が後回しになってしまっては、本末転倒といえます。
また、データの分析は、短くて半年単位で行うことを考えても、まずはデータの入力と一元化を優先すべきだと考えています。
以上、汎用的な視点で説明しました。
権限やデータの整備状況、制度内容・制度運用の視点が異なる場合が多く、企業ごとにアプローチは変わりますが、情報の適切な入力・収集フローの確立という視点で制度構築、運用フローの見直し、体制の検討を進めていけば、どの企業においてもデータの収集はできるのではないでしょうか。
それには大変な労力と苦労が伴うかと思いますが、実施する価値は高いと考えています。
次回においては、その果実ともいえる「人事DXからの意思決定の流れ」について触れていきたいと思います。