第8回 人事DX導入における優位性
最終更新日:2024.10.24
はじめに
前回は弊社さかえ経営の人事DX推進事例を紹介しました。
今回(最終回)は、これまで触れてきた人事DXの総括と今後の展望について説明したいと思います。
人事DXの理解
人事DXという言葉そのものは、ここ1 ~ 2 年でかなり浸透してきました。
しかし、具体的にどうするのかという手法・アプローチに関しては、クラウドツール・クラウドシステムの導入のみに終わってしまっている印象が少なからずあります。
これまで触れたように、人事DXには2 つのアプローチがあると思います。
1 つは人事のデータ分析であり、もう1 つは人事業務の自動化です。
このアプローチを実現するためには、データの整備や統合、また人事業務の整理が必要になってきます。これらに着手しないと、人事DX化は進まないでしょう。
会社ごとの状況にもよりますが、その実行には大きな労力が伴います。
しかし、これらに着手し、そして人事DXが達成された状態になると、貴社の人材マネジメントは劇的に変わります。
1)人事業務の整理→RPA化→人事業務の効率化
2)人事データ整理→AI分析→人材マネジメントの施策の立案
さらに目先の効果に言及すると、以下のことがいえます。
1)人事業務の効率化により、作業従事工数が削減し、企画的業務等その他の業務に従事できる
2)データに基づく分析結果により、効果的な人材マネジメントの施策を講じることができ、昨今の課題である、離職者の防止や管理者の育成につなげることができる
単なる人事DXだと具体的にイメージすることが難しいため、まず、どのような効果があるのかを考える必要があります。
しかし、「実際に何ができるのか」「どのような効果があるのか」「それを実現するためには何をしなければならないのか」は理解しているが、実際には難しいと考えている人(企業)が多いのではないでしょうか。これらの不安・懸念をいかに乗り越えていくかがカギになります。
入り口としては、人事DXの効果を認識し、それに対するアプローチを検討することではないでしょうか。
人事DX実現に向けた課題と現状
以前(2022年8 月号)でも触れましたが、給与業務面と人事データ収集において様々な問題があります。
まず、給与業務面の問題では、基幹業務として「給与が支給」されればよいという認識があり、評価結果や教育履歴等のデータ収集がなかなか進まないという現状があります。
また、業務の整理についても詳細は各担当者に任せっきりの場合が多く、なかなか進まない状況が多いのではないでしょうか。
仮に進んだとしても限定的になってしまい、その恩恵をあまり受けることができていないケースもあるかもしれません。
人事データ収集については、情報の集約・統合の作業が発生します。
さらに一部については定性データの「定量化」が必要になります。
このような現状に対応すべく、主管部署を決めて進める必要がありますが、経営陣や推進者に対して、上記で説明したような具体的な効果とそれまでに必要なことを関連付けて説明、納得を得る必要があると考えています。
また、推進にはタレントマネジメントシステムや給与計算クラウドの導入が不可欠となります。
入社時に給与計算・社会保険手続きにおけるデータ入力を従業員自らに行わせるために導入している企業から、配置・スキル履歴等の管第理をするために導入する企業など、目的は多種多様です。
さらに、それに合わせて、それぞれの目的に特化したシステムもあります。
さかえ経営独自の分類ですが、タレントマネジメントを以下のように分類しました。
A型:給与計算・社会保険手続きの迅速化のため、従業員に直接入力をさせるシステム
B型:配置、スキル管理を行うため、それらの情報を一元化したシステム
C型:人事におけるすべての情報を集約し、一部分析を行うことができるシステム
データ収集のみの視点で判断するとC型が望ましいと考えていますが、やはり日常の業務と関連性も重視したほうがよいかと思います。
しかしながら、上記型はあくまでも、「重視している事柄」であるため、どれを選んでもよいと考えますが、データ収集のしやすさと日常業務の運用の親和性を考慮して選ぶ必要があるかと思います。
日本の人材マネジメントの構造的問題
給与計算に関する業務整理のアプローチとしては、個々の業務からアプローチするのではなく、計算結果(給与台帳)や手続きにおける記載内容の結果から、情報収集経路を洗い出すこととしました。
インタビュー対象者が多く、かつ業務が重複もしくは不要であることが予測されたので、よりスピーディーに分析・整理を行うため、逆算的な手法を試みました。
少子高齢化に伴う労働人口の減少がますます進んでいくとともに、企業が求める人材の多様化と人材不足が露呈しており、その結果、人材の採用・育成、リテンションの推進は急務です。
そのためにも、省略できる業務の削減、データ等を用いた客観的な判断の推進が不可欠となります。
また、業種にもよりますが、国内マーケットが縮小傾向にあるなか、海外へ進出する企業も多いと思いますが、円安やパンデミック、その他のイレギュラー事案が発生する可能性がこれまで以上に高いことから、素早い意思決定や迅速なコストコントロールが求められます。
一方で、日本企業の多くが職能資格制度(もしくは類似の制度)を導入しているために、年次ごとに昇格・昇給していくシステムが残っています。
しかし、ジョブローテーションという概念がないと、どの部署にどのような人材がいるのか把握する必要性があまりないため、データ管理が進まない背景もあります。
既存の制度においてももちろん人事DX化を進めることができますが、人材把握を進めるという意味では人材のスキル、従事している業務、キャリアの志向性をベースに進めるほうが、人事DXは活かされてくると考えています。
しかし、必ずしも従業員の意向のみを考慮するのではなく、会社の意向と従業員の意向をすり合わせ、それに即した対応をするという意味ですので、多様な人材を処遇する制度設計も必要になるかもしれません。
とはいえ制度構築まで考えると、なかなか前に進みませんので、まずは現制度でトライすることが最優先だと思います。エラーが出ても、その原因を追究し、改善、次の施策につなげるスピードを加速していくほうが上手く進むのではないでしょうか。
連載の最後に
昨今、アメリカにおいて人的資源の情報開示が求められるようになり、日本でもその動きが進んでくると思われますが、多くの企業がまだ現実的な問題として捉えていない印象を受けます。
しかし、筆者の日々のコンサルティングサービスを通じて、退職の防止や教育プランの充実、管理者の育成等の論点が盛んに出てくるようになりました。
もちろん、業種やその企業のブランドによっては、特に策を講じなくても問題ない場合もありますが、逆にそうでない企業にとっては、人材マネジメントの充実により飛躍的な業績向上のチャンスともいえるのではないでしょうか。
RPAやAIツールもまだまだ開発や改良、コストダウンの余地はあるかもしれませんが、その技術の進化に対して、柔軟に対応しながら、機械に頼りすぎず、上手く活用していくことが貴社の人材マネジメントの充実につながるものと確信しています。