適切な業績目標の課し方:パワハラを避け、効果的な目標管理を実現する方法
最終更新日:2024.10.24
目次
社員に目標を提示する際にパワハラにならないように気をつけるべき点は?
当社では業績が苦しく、売上げが急激に下がっています。営業のスタッフの実績も期待した伸びが見られず、我々は業績予想を見直すことを検討しています。
しかし、目標設定が厳しすぎるとパワハラになるという話を耳にしたこともあり、社員に目標を提示する際に気をつけるべき点を教えていただけますか?
パワハラのガイドライン6種型のうち「過大な要求」には要注意
従業員への目標設定にあたって、企業はパワハラとならないようその従業員の特性を考慮し、適切な努力を通じて達成可能な目標を提示すべきです。
また、目標を達成できなかった場合でも、ただ批判するだけではなく、改善と指導のためのアクションを取ることが重要です。
パワハラのガイドラインには以下の6類型があり、そのうちの一つに「過大な要求」というものが含まれています。
- (1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
- (2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
- (3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- (4)過大な要求
- (5)過小な要求
- (6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
この「過大な要求」は、業務上明らかに必要性のないことや不可能なことの強制、職務の妨げとして定義されており、例えば以下のような状況がパワハラとみなされます。
・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること
またパワハラのガイドラインでは、以下のような状況はパワハラに該当しないとされています。
・業務が忙しい期間に、業務上の必要から、該当業務の担当者に通常より多めの業務を処理させる
過大な要求に関連する裁判例
会社が従業員に目標を課す際に、当該目標を到底対応できないレベルのものとした場合には、当該目標の設定がパワハラと判断されるリスクがあります。
目標設定そのものの違法性を肯定したものではありませんが、以下の裁判例も参考になります。
関西ケーズ電気事件・大津地判平成30・5・24(労経速2354号18頁)
会社が従業員に対し競合店舗の価格調査を強要した事案について、当該業務の業務量等に着目して「極めて特異な内容」と評価したうえで、積極的に嫌がらせをし、あるいは、辞めさせる意図まではなかったとしても、過重な内容の業務を強いることになるとし、会社の不法行為責任を肯定しています。
天むす・すえひろ事件・大阪地判平成20・9・11(労判973号41頁)
代表取締役が取締役統括部長に対し、業務上の指示を突然に変更し、独断で業務内容を決定したことや、休養中にもかかわらず業務上の指示をしたこと、自らの言動が原因で退職する従業員の対応に追われる状況にしたことについて違法性を肯定しています。
従業員の健康と安全を考慮し、達成可能な目標を設定
もう一つの視点として、過酷な目標設定により従業員が精神疾患に罹患するリスクが高まる場合、会社は安全配慮義務違反の可能性もあります。
つまり会社には、従業員の健康と安全を考慮し、達成可能な目標を設定することが求められています。
会社の安全配慮義務違反
目標設定が極度に厳しく、その結果従業員が精神的な負担を強いられ精神疾患に罹患するリスクが高まる場合、会社は安全配慮義務違反の疑いが生じます。
従業員の健康と安全を保護するために、会社は適切な対応策を講じる必要があります。
従業員の目標設定では、法的なリスクを最小限に抑える
従業員の目標設定には法的なリスクが潜んでいます。
そのため、日常的に従業員の目標達成状況や課題を把握し、適切な目標設定を行うことが必要です。
従業員の能力や状況を考慮し、現実的かつ達成可能な目標を設定することで、法的リスクを最小限に抑えることができます。
人材マネジメント上のポイント
ノルマを達成できない従業員に対しては、当該従業員の課題を的確に指摘し、適切な改善や指導を行うことが重要です。
従業員の目標管理は人事労務管理上の重要な要素となります。
仮に目標を達成できない場合であっても、単に人格等を否定し叱責を行うことは厳に慎まなければなりません。
従業員の成長と目標達成に向けて、適切なサポートを提供することが求められます。