内定を承諾したのに連絡もなく他社に就職した場合、損害賠償を請求できるか?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
内定者が連絡もなく入社日に来なかった上、連絡をとったところ他社に就職したとの返答がありました。
このような状況で、損害賠償を請求することは可能でしょうか。
無断で他社に就業する行為は、一般的に許されるものなのでしょうか。
内定辞退は許されるのか?
一般的に、新卒採用に応募する学生が複数の内定を取得し、その中から就職する会社を1つに絞ることは珍しくありません。
企業としては多大なコストと労力をかけて採用者を募集・選考していますから内定辞退はできる限り避けたいところではありますが、
内定者側の立場は
そのため内定辞退そのものを防ぐことは難しく、辞退をある程度想定して実際の想定入社人数よりも多く内定を出すなどの対応をしている企業も多いことでしょう。
内定承諾書の法的効果
出来る限り内定辞退者を減らすために、「内定承諾書」の提出を求めることは一定の効果があります。
内定承諾書とは求職者が内定を承諾することを確認するための書類で、指定の入社日をもって提出先の企業に就職することを宣誓する内容となっていることが一般的です。
内定(採用)通知書と内定承諾書
企業が内定(採用)通知書を出したということは、企業から求職者へ雇用契約の申し込みをしたということです。
これに対して内定承諾書を返したということは、当然求職者が雇用契約の申し込みを承諾したことを意味し、この時点で雇用契約は締結されたとみなされます。
「内定承諾書」自体には、法定拘束力はないものの、前述のように「入社」の意思が合致した時点で、雇用契約が成立していますので、お互いに誠意ある対応が求められると言えます。
雇用契約の破棄について
民法上の雇用契約の原則
民法における雇用契約の規定を見ると、期間の定めのない正社員に関しては、
この場合、雇用は解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」
と定められています(民法627条第1項)。
これは逆に、期間の定めのない労働契約は14日前の告知で解約することが可能であるということを意味しており、少なくとも入社日の14日以上前に内定辞退の申出があった場合、法的な手続き(例えば損害賠償請求)を行うことは難しいでしょう。
入社日まで連絡が一切ない点を不法行為とすることは可能か
とはいうものの、入社式直前(例えば前日)の内定辞退や、当日まで連絡がないままの内定辞退については、何らかの対応を検討したくなる気持ちも理解ができます。
内定辞退のケースとは異なりますが、他社への転職に関する損害賠償請求が問題となったラクソン事件(東京地判平成3年2月25日)で裁判所は
と述べています。 具体的には、
とされ、一方的な転職が不法行為に該当する可能性があるとしています。
しかし、2週間前の予告がなかったという一点のみで社会的相当性を逸脱し、不法行為が成立するかについては、原則として損害賠償請求は難しいとされます。
前掲ラクソン事件は高位の労働者が複数の従業員を引き連れて退職したケースで、実際に企業側に損害が発生しています。
一方で内定辞退の場合は一般的に1名の内定者のみに関するもので、かつ特段の労働実績のない段階での辞退(退職)であり、具体的な損害を立証することは大変困難です。
せめて14日間の雇用状態を主張するか?
強制労働の禁止(労働基準法第5条)の観点からも、さすがに14日間強制的に労働させることはできませんし、形のみ雇用契約を維持したとしても双方にメリットはありません。
内定辞退において例外的に損害賠償を主張できるケースとして、
なども考えられますが、新卒内定の場合このようなケースは極めて例外的です。
したがってたとえ連絡なしの内定破棄であったとしても、警告文や抗議文を送る程度の対応が精一杯となることが多いでしょう。
内定辞退をできる限り減らすために
前述の通り、「内定承諾書」の提出を求めることは辞退抑止に一定の効果があります。
できる限り効果を最大化させるためにも、内定通知書を送付する際には併せて労働条件通知書を同封し、そのうえで内定承諾書を提出してもらうようにしましょう。
また内定承諾書の提出が雇用契約の成立を意味することを明記し、覚悟をもって承諾書にサインしてもらうことが大切です。
そのうえで残念ながら辞退の連絡をしてきた学生には、こちらも誠意をもって気持ちよく送り出してあげてはいかがでしょうか?