勤務中の昼寝を注意したらパワハラに!?業務指導とパワハラを区別するポイント
最終更新日:2024.10.24
目次
勤務中の昼寝を注意された社員が、自分はパワハラを受けたと主張
ある社員が勤務時間中に昼寝をしていたことが発覚し、管理職者が該当の社員を強く注意した結果、その社員から「私はパワハラを受けた」との報告がありました。
業務上の指示とパワハラの違いはどのようにして線引きされるのでしょうか。
「業務上必要で、かつ相当な範囲を超えた言動かどうか」で判断
業務指導かパワハラかの判断は困難を伴います。
しかし
●当該言動を受けた労働者の間題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況
●業種・業態、業務の内容・性質
●当該言動の態様・頻度・継続性
●労働者の属性や心身の状況
●行為者との関係性
等が総合的に考慮され、【業務上必要】かつ【相当な範囲を超えたかどうか】によって判断されると言えるでしょう。
改正労働施策総合推進法
改正労働施策総合推進法が成立するまで、パワハラを定義した法律は存在しませんでした。
(本推進法は日本の労働法の一つで、労働政策の基本方針や方策を定めるとともに、労働者の権利を保護することを目的としています。)
改正労働施策総合推進法成立前の裁判例では、下記のような事例がありました。
●ザ・ウインザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件/東京地判平成24・3・9(労判1050号68頁)
この裁判では、パワハラとは、
と定義しようと試みましたが、同事件の控訴審・東京高判平成25・2・27(労判1072号5真)ではこの定義を引用することなく、依然として、パワハラの定義は確立しませんでした。
このような中、【改正労働施策総合推進法の成立により、その定義は下記のように明確化されました。】
パワハラの定義(同法30条の2第1項)
①職場おいて行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③その雇用する労働者の就業環境が害されること
業務指導とパワハラを区別するうえでの裁判例
実務上、業務指導とパワハラを区別するうえで、裁判例を参考例として2つの事例をご紹介致します。
「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」という言葉の叱責
●富国生命保険ほか事件・鳥取地米子支判/平成21・10・21(労判996号28真)
また原告のチームと原告自身の成績はともに不足していた中、支店長と営業部長は原告に対し朝礼や会議で、「マネージャーが務まると思っているのか」「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」という言葉で叱責していたとの事例について、その言動の違法性を認めました。
「何でできないんだ」「馬鹿野郎」「帰れ」などの言葉
●岡山県貨物運送事件・仙台高判/平成26・6・27(労判1100号26頁)
叱責はだいたい5〜10分続き、頻度は週に2、3回。重大なミスが続けば日に2、3回も行われることが確認され、その言動の違法性を認めています。
精神的・身体的な攻撃、仲間はずしや業務上嫌がらせなど6つに分類される
法の改正に伴い整備されたパワハラ指針おいて、パワハラは、次の6類型に分類されます。
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
この中でも、実務上特に悩ましい判断を要求されるのが、②の精神的な攻撃です。
判断は「言動の目的・受け手側の状況・業務の内容・行為者との関係性」などを考慮
パワハラ指針によると、パワハラに該当するかどうかは、下記の視点から総合的に考慮され判断されます。
●当該言動の目的
●当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況
●業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況
●行為者との関係性等
さらに、特定のケースで【労働者の振る舞いが問題となる時】には、その内容や程度、そのその際に行われた指導の方法のバランスが重要な要素となります。
裁判例においても、概ねこれらの状況を総合的に評価し、業務の指導とパワハラの違いが判定されます。
日頃からパワハラ防止研修を行うなど注意喚起が大切
業務上指導とパワハラの違いを明確にするためには、関連する裁判例の研究と、パワハラのガイドラインに基づく事情の総合的な検討を通じて、慎重な判断を進める必要があります。
企業側として、この二つの違いを正確に判断しなければならないような状況に陥らないように、日頃から管理者へのパワハラ防止研修等を行い、過度な指導を避けるための注意喚起を呼びかけることが求められます。