社員による会社の備品の持ち帰りが発覚。会社が取るべき対処法とは?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
社員が会社のボールペン・消しゴム・ノート・電卓・図書類等の備品を勝手に持ち帰り困っています。
どのように対処すればよいですか?
解説(基本的な考え方)
自宅で仕事をする際に使用しているだけなどの場合も考えられるため、まずは
-
全ての社員に「備品利用に関するルール」の周知徹底を図る
- 違反した社員がいたら注意を行う
というような対処から始めるのがよいでしょう。
悪質なケース
しかし、会社の備品を持ち帰る行為は懲戒処分の対象になり得る非違行為であり、行為の悪質性によっては刑法上罰せられる可能性のある犯罪行為です。
悪質性が高いケースとは、
- 高価な備品を持ち帰っている
- 持ち帰った物を転売している
- 常習的に行っている
等で、このような場合には懲戒処分を含めた対応を検討する必要があります。
また場合によっては、刑事告訴を行い、あわせて損害賠償を請求するということも考えられます。
窃盗罪と横領罪について
窃盗罪
窃盗罪は、
他人の占有する財物を、暴行・脅迫の手段によらず、占有者の意思に反して窃取することによって成立する犯罪
で、刑法上で窃盗罪が成立すると
10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(刑法第235条)
とされています。
- 備品庫からボールペンを勝手に持ち帰った
- 社内にある図書類を勝手に持ち帰った
- コピー用紙を勝手に持ち帰った
等が窃盗罪になり得る一般的な例です。
横領罪
横領とは、
自分が占有する(預かっているなどして、その物を事実上支配している状態のこと)他人の財物を自分のものにしてしまう
という状況を指し、刑法上で横領罪が成立すると、
- 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する(刑法第252条1項)
- 業務上、自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する(刑法第253条)
とされています。
会社から貸与された備品(ボールペン・消しゴム・ノートなど)を自分の私物とする
等が業務上横領罪になり得る一般的な例です。
懲戒処分は妥当か?
例えば
- 会社のボールペンや消しゴムを何個か持ち帰った
- 業務外に会社の備品を一時的に使用した(後で返すつもりだった)
というようなケースに懲戒処分を行うと、さすがに懲戒権の濫用(労契法15条)と見なされる可能性が高いです。
常習的な行為でない場合、まずは、「社内ルールに従って備品を使用するよう注意・指導を行う」というような対処法に留めておくべきでしょう。
懲戒解雇が「有効」と判断された裁判例
生命保険会社でライフプランナー(営業社員)として勤務していた社員が、会社から貸与されたパソコンを質入れし、それが質流れとなったことを理由に懲戒解雇とされた
という事案がありました(ソニー生命保険事件・東京地判平11・3・26労判771号77貢)。
同裁判では、当該ライフプランナーに対して、
- 顧客から保険料等金銭を預かることも業務に含まれており、金銭に対する潔癖性が要求される
- 会社の損害額が約20万円と大きくなく、質入れによる社員の利得がわずかであったとしても、見過ごしにはできない非行である
- パソコンを質入れしている期間、当該社員はパソコンを使用できず、会社の方針に反している
- 業務に全く支障がなかったともいえず、職務遂行態度に問題があることも否定できない
- 貸与パソコンには会社の機密情報や会社の開発したシステムがインストールされており、それらが外部に漏えいされることで被る会社の損害は計り知れない
などと判示し、懲戒解雇は「有効」という結論を導いています。
備品の持ち帰りを防ぐために
備品の持ち帰りは、罪の意識をあまり持たずに行われていることが多いです。
その為まずは、
- 社内規定などで、備品利用に関するルールを明確に定める
- 社内規定などで、備品利用に関する細目を定める(貸与しているパソコンや携帯電話など)
- 備品利用に関するルールを社員に周知徹底し、社員の規範意識形成に努める
- 犯罪にもなり得ることを伝える研修会を定期的に開催する
- 物理的に備品の持ち出しが不可能な環境を作り出す(ワイヤーを取り付ける・鍵付きBOXに入れるなど)
のような対策をしておくとよいでしょう。