従業員が会社に損害。身元保証人に賠償請求できる?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
当社では、採用内定者に誓約書と共に身元保証書の提出を求めています。
もし従業員が過失や不正行為で会社に損害を与えた場合、入社時に提出された身元保証書を基に、その賠償を身元保証人に請求することが可能でしょうか。
解説(基本的な考え方)
従業員が会社に損害をもたらしたとき、一定の範囲で身元保証人に損害の賠償を請求できます。
ただし、
・賠償の上限(極度)が記載されていない保証書は無効(2020年4月以降に締結されたもののみ)
身元保証書
身元保証書とは
身元保証書とは、労働者を雇用する会社等が内定した労働者と入社手続きを取る際に、
・被保証人(労働者)が会社に損害を生じさせた場合、その賠償責任を負うこと
などを約束してもらうために、身元保証人に提出を求める書類です。
身元保証書の提出は拒めるか?
身元保証書は提出を法律で義務付けられている書類ではないため、入社予定の人が提出を拒否することは可能です。
ただ、身元保証書は想定外のトラブルに備える緊急連絡先としても必要な書類です。
何らかの理由で社員と連絡が取れなくなった場合などに必要であることなどをよく説明し、理解してもらいましょう。
また、
・期限内に身元保証書を提出しない場合は採用を取り消す
といった内容を就業規則に明記している場合には、事実上提出を義務付けることができます。
身元保証人の責任範囲
昭和8年に制定された「身元保証ニ関スル法律」により、身元保証人の責任が適切に制限されています。
身元保証の期間
身元保証契約の有効期間について、以下の定めがあります。
・保証書に定めがなければ3年
・明示的に設定する場合は最長で5年
・この期間(5年間)は必要に応じて更新が可能(同法第2条)
・5年を超える自動更新はできず、保証を継続するためには保証書の再締結が必要
賠償の上限(極度)
損害賠償の上限額は企業が自由に設定できますが、一般的に支払い可能な金額に設定しておいたほうがいいでしょう。
なお、2020年4月の民法改正によって
が企業に義務付けられました。
身元保証書に上限額が記載されていなければ、身元保証契約そのものが無効となるので注意が必要です。
身元保証人に知らせるべきこと
使用者は下記場合、その事実を身元保証人に通知する義務があります(同法3条)。
・従業員の適性や言動が身元保証人に影響を及ぼす可能性がある場合
・仕事内容の変更によって保証人の責任が増大した場合
・勤務場所の変更で、保証人の監督が困難になった場合
通知を受けた身元保証人は、身元保証契約を将来に向けて解除することができます(同法4条)。
実際の賠償額
従業員の不始末による損害賠償時、その損害額のすべてを賠償するわけではなく、裁判所が以下の点を考慮して賠償範囲と金額を定めます。
1) 使用者の監督責任の有無
2) 身元保証人が保証を受けるに至った理由
3) 身元保証時の内容理解度
4) 従業員の職務内容や地位
5) 従業員の身上変化(同法5条)
過去の判例では、身元保証人の負担額は従業員本人の負担額よりもしばしば減額されています(例:「丸山宝飾事件」、「坂入産業事件」、「富運送事件」)。
まとめ
身元保証人には緊急連絡先としての性質もあるため、その必要性をよく説明し、身元保証書を提出してもらうようにしましょう。
トラブルを防ぐためには、就業規則などで身元保証書の提出を定めておくことが望ましいです。
また身元保証書には
・保証の上限額
・身元保証人の連絡先