デートを理由に残業を拒否する従業員にはどう対応すべき?ポイントは36協定と就業規則
最終更新日:2024.10.24
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就業規則に残業を命じる規定あり。残業を拒否する従業員を処分できる?
A社の過半数代表労働組合とA社との間で36協定がある一方、A社の就業規則には「必要に応じ従業員に残業を命じることができる」と規定されています。
しかし、従業員Bは会社の都合よりプライベートライフを優先する姿勢で、「デートがあるので」と理由をつけて、受注に対して生産が追いついていない工場での残業を拒否しています。
Bの態度が他の従業員にも悪影響を与えるため、適切な処分をする必要があります。
どのような対応が望ましいでしょうか。
残業させるには36協定が必要。違反者に解雇措置もあり得る
36協定が結ばれ、就業規則には業務上の必要がある場合の残業の義務が明記されており、実際に残業命令に違反があった場合は、解雇などの措置を取ることもあり得ます。
ただし、36協定だけでは残業させることはできない
ただし、36協定の履行だけでは、労働者に対して、定められた時間外・休日出勤義務を自動的に課すものではありません。
個々の労働者が時間外・休日出勤義務を負うためには、労働契約においてそのような義務が認められている必要があります(岩泉・大系236参照)。
最高裁判所は、この点に関して、
と認めています。
従って、
就業規則に時間外労働に関する規定があり、その定めに合理性があれば(労働契約法第7条における合理性)、原則として時間外労働義務が認められることになります(日立製作所事件、最ー小判平成3年11月28日民集45巻8号1270頁)。
就業規則で残業の義務が明示され、その規定が周知されている場合に限る
A社は36協定により労基法で認められる範囲内で残業を行うことができますが、就業規則で残業の義務が明示され、その規定が周知されている場合に限ります。
残業命令拒否に対する懲戒処分については、労働契約法15条が適用されます(岩出・大系509頁以下参照)。
前掲日立製作所事件・最ー小判平成3・11・28でも、1回の残業命令違反で懲戒解雇が適用されることはありません。
懲戒解雇は最終手段であることを考慮する必要があり、勤務態度の改善を促すため、軽い懲戒処分を含めて努力した場合でも残業を拒否し続ける場合には、懲戒解雇が不可避になる可能性を考慮すべきです。
人員体制や所定時間内労働の効率アップにより残業の必要がないのが好ましいですが、
そして、従業員の納得性を高めるため、業務の必要性に関してできる限り、具体的かつ明確に規定する必要があります。
違反があった場合は、機動的に行えるような人事管理のマニュアルを作成し、これを管理職に徹底して伝え、従業員への周知を心がけましょう。
36協定で認める残業時間には罰則付き上限規制がある
残業、すなわち時間外労働は、災害等の臨時の必要ある場合(労基法33条1項)と、公務のため臨時の必要がある場合(同条3項)を除き、労働組合が過半数を組織している場合は、その組合と、そうでない場合は労働者の過半数を代表するものと使用者との間で36協定を締結し、労基署長に届出をすることが必要です(同法36条)。
この協定には免罪的効果があり、有効期間中は協定の定めるところに従って8時間労働制・週休制の基準(同法32条、35条)を超える労働をさせても、基準違反の責任を問われません。
(3箇月を超える変形労働時間制を利用している場合には月42時間、かつ、年320時間)(労基法36条4項)。
特例として、
ただし、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限上回ることのできない上限が設けられています。
この上限については以下のとおりです。
①2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内を満たさなければなりません(同条6項3号)。
②単月では、体日労働を含んで100時間未満を満たさなければなりません(同項2号)。
③加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とされています(同条5項。岩出・大系228頁~233頁参照)
判例:就業規則に基づく残業命令違反による懲戒解雇は有効である
最高裁は、前掲日立製作所事件・最ー小判平成3・11・28において、
として、時間外労働を拒否した労働者の懲戒解雇は有効であるとしています。