従業員が議員に当選!その活動時間をどこまで保障すべき?
最終更新日:2024.10.24
目次
問題の事象
A社では、ある従業員Bが地方議会の議員に当選し、業務に就く時間が大幅に短くなりました。
これまでは、労基法による公民権保障の範囲と考え、本人から申告されるまま休務を認めていましたが、業務への影響が大きいため、何らかの制限を検討したいと考えています。
このような場合、法的にはどこまでが公民権行使の範囲と評価されるのでしょうか。
解説(基本的な考え方)
議会や委員会出席以外の議員活動も公民権行使(「公の職務」の執行)の範囲と評価されると考えられますが、
また、
と考えられます。
トラブル回避できない場合のリスク
公民権行使の範囲
労働基準法第7条には、
と規定しています。
地方議員としての活動も、公の職務の執行として法律上保障されています。
従って、従業員が公の職務の執行に必要な時間を請求した場合は、会社は拒否できません。
ただし、必要以上の時間が請求された場合は、超過部分については拒否することができます。
公の職務に必要な時間は、具体的な内容によって客観的に判断されます。
地方議員の場合、
とされています。
従業員から
とされています。(上記活動を町議会議員の活動に要する時間であることを前提として判断している例として、森下製薬事件・大津地判昭和58・7・18労判417号70頁参照)。
規程・マニュアル作成上のポイント
休務時間を無給とすること
従業員が勤務中に地方議員としての活動に必要な時間を請求した場合、時間の変更を求めることはあるかもしれませんが、請求そのものを拒むことはできません。
ただし、法律上、その活動時間に対して賃金を支払うことは義務付けられていないため、賃金を支払うかどうかは当事者間で合意が必要となります。(昭和22・11・27基発399号参照)。
解雇とすること
従業員が地方議員に就任した場合、議会や委員会への出席だけでなく、調査・研究、所属する政党や会派の会合への出席、有権者との接触など、多岐にわたる活動に時間がかかり、会社業務に重大な影響を及ぼす可能性があります。
このような場合、会社としては従業員を解雇せざるを得ない場面も出てくるでしょう。
しかし、公職に就いた者を懲戒解雇にする就業規則の条項は無効とされており、解雇は公の職務の執行に必要な時間だけでなく、その他の理由が必要とされています。
つまり、従業員が勤務中に地方議員として必要な時間を請求した場合、その時間について無給とすることは許されますが、地方議員に就任したこと自体を理由に解雇することはできません。
運用上のポイント
ただし、
ものとされています(前掲森下製薬事件・大津地判昭和58・7・18、社会保険新報社事件・東京高判昭和58・4・26労民集34巻2号263頁参照)。
また、質問者の場合、当該従業員の休業中の賃金については、当事者間で自由に決定できることになります。
また、従業員が議員活動のためにほとんど仕事をすることができず、会社の業務への影響が重大であり、著しい阻害が生じている場合には、解雇も可能とされています。
人材マネジメント上のポイント
現在では、国民の政治参加意識の高まりから、従業員が国会議員や地方議員に立候補するケースが今後ますます増加することが予想されます。
また、選挙権の行使や、裁判員制度における「裁判員」、労働審判制度における「労働審判員」の職務も「公の職務」として位置づけられます。
そのため、従業員の定着化や会社の業務必要性との調整の観点から、公民権行使の時間に関する賃金や休職制度(復職時の処遇を含む)などをあらかじめ類型化して規定化し、会社の方針を確立しておく必要があります。