健康診断結果は本人以外の誰にも開示できない?プライバシー保護と企業の義務を理解する
最終更新日:2024.10.24
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従業員の健康情報を、異動先の上司に共有できる?
人事異動に伴い、人事担当者は、従業員の健康情報を異動先の上司に伝えて良いのでしょうか。
健康情報は差別や不利益な取り扱いにつながる恐れがあり、注意が必要
従業員の健康情報を異動先の上司に伝えても、同一の事業体内での情報のやり取りにすぎないので、「第三者提供」には該当せず、開示にあたり従業員本人の同意(個人情報保護法23条1項)は不要です。
しかし、健康情報は、従業員本人に対する不利益な取扱いまたは、差別等につながるおそれのある要配慮個人情報(個人情報保護法2条3項)であるため、その取扱いには特に配慮を要します。
また、HIV感染症やB型肝炎等の職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝性疾患に関する情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除く、事業者は労働者等から取得すべきではないとされています(個人情報保護法17条2項、留意事項)。
また、事業者は、健康情報管理を取得するにあたり、自傷他害のおそれがあるなど、従業員の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合等を除き、従業員本人に利用目的を明示・公表し、また、その利用目的の範囲内で健康情報を取り扱う必要があります(個人情報保護法16条1項・3項、18条1項・2項・4項、留意事項)。
業務を遂行する上で配慮が必要な場合のみ、異動先の上司への共有が妥当
健康情報は、いわうるセンシティブな情報であり、当然のことながら、「自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくない」情報であるため、プライバシー権として保護される情報であると言えます。
使用者にとってみれば、健康配慮義務(労働契約法5条、電通事件、最二小判平成12・3・24)の履行として負担の配慮や適正な人事配置を行うには、健康情報を関係者が共有することが不可欠であり、従業員のプライバシーも、そのために必要且つ相当な範囲内で制限を受けるべきです。
例えば、従業員が精神疾患を罹患しており、医師から、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずべき旨の指導がなされている場合には、医師の指導に沿った措置を講じるため、異動先の上司に当該精神疾患の情報を伝えることができるものと考えられます。
これに対し、精神疾患があっても他の従業員と同じ労働を行うことが可能で、労働時間の短縮等の措置を講じる必要がないにもかかわらず、異動先の上司に伝えた場合、情報開示は当該従業員のプライバシーを侵害する違法行為になり得ます。
事業者は、従業員の健康確保に必要な範囲を超えて健康情報を取り扱ってはならない
業務負荷の配慮や適正な人事配置という目的に照らし必要かつ相当な範囲内であれば、従業員の健康情報を上司に伝えることは可能です。
個人情報保護法違反、プライバシー侵害とならないよう、社内開示の目的を明確にし、それとの関係において情報の開示対象者、開示する情報の内容を限定する検討が必要です。
また、健康情報は、原則として、従業員の健康確保に必要な範囲で利用されるべきものであり、事業者は、従業員の健康確保に必要な範囲を超えて健康情報を取り扱ってはならないとされています。
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HIVやB型肝炎などの情報を本人の同意なしで漏らせばプライバシー侵害
派遣先が、派遣労働者のHIV感染事実を、派遣元の代表者および派遣労働者が所属していた部門の最高責任者に伝えたというHIV感染者解雇事件・東京地半平成7・3・30(労判677号14頁)は、「個人の病状に関する情報はプライバシーに属する事柄であって、とりわけHIV感染に関する情報は、HIV感染者に対する社会的偏見との差別の存在することを考慮すると、極めて秘密性の高い情報の属する」と述べた上で、派遣先が、派遣労働者のHIV感染の事実を派遣元代表者に伝えるべき「必要性ないし正当な理由があったとは到底認められない」とし、また、派遣労働者が所属していた部門の最高責任者に伝えた行為についても、「HIV感染を知らせなければならなかった業務上の必要があったとは到底考えられず、他にとるべき手段がなかったとは言えない」と判示し、プライバシー侵害による損害賠償責任を認めています。
人材マネジメント上のポイント
有期雇用者であれ、派遣社員であれ、どのような区分の人にどのような業務を担ってもらうのかある程度明確にしておく必要があるかと考えています。
そのための手段として、役割の厳格化、もしくはジョブの厳格化が望ましいと考えます。
アプローチとしては、求める人材像を、役割・ジョブの視点で整理し、その内容を具現化し、各人材への当てはめについては、ドラスティックに実施することが必要です。
しかし、一方で、急激な変化を恐れて中々難しい場合がありますが、その場合は、まずは賃金制度と切り離して、導入を進めて行くのも一つの手段として考えられます。
ジョブ型人事制度を策定することは、単に報酬体系の明確化だけではない、その副作用としては、人員ごとの業務レベルが測定されているため、単なる人数だけではなく、業務上必要なレベルが可視化されているため、より効果的な人員配置、さらには求める人材が明確になります。
また、それらの情報を元に、採用においても、その人数・レベルに沿った人材の募集・配置が可能になります。